328 / 401
ファントムは見当たらない 5
しおりを挟む俺へ視線を寄越し小さく頭を下げる彼らに自分の役目を果たすべくクリスティーヌ嬢の躰を放そうとするも、小さな手が俺の胸元を握りしめたまま離さない。
よっぽど不安だったのだろう、とその手を優しく叩いて請えば「あっ…」と恥ずかし気に頬を染めて躊躇いがちに手を離された。
剣を何度か振るい、鉄格子を切り裂く。
その光景にクリスティーヌ嬢は口元を覆って瞳を見開くが影たちは慣れたもので、虎を引きずり檻へと戻し厳重に扉を閉めたり、部屋内に他に重要なモノがないか見回ったりと実に機敏だ。
剣をしまい、再びクリスティーヌ嬢へと向き直った。
手袋を嵌めた手でポケットから取り出したそれをそっと手の中で握りつぶし、彼女へと手を伸ばした。
頬にほつれた髪を指で払い、撫ぜるように頬から口元へと手を沿わす。
くらりと漂う甘い香りに瞳が大きく開かれた。ついでとろりと蕩けた瞳と重くなる瞼に彼女が倒れてしまわないようその腰を支えた。
縋るように胸元を掴む細い指。
「恐い夢はもうお終いです。次に眼が醒めた時には全て終わっていますから」
「えっ…?」
「眩ゆい程のスポットライトに照らされて高らかに歌い、晴れ渡る空の下で自由に在れます。貴女にあんな鳥籠は似合わない」
子供を寝かしつけるようにそっと瞼を下ろす。
だけど手袋の下、抗うように長い睫毛が掌を僅かに擽る。
力の入らない手が俺の手を掴んだ。
「あの…貴方の…お、名前は……?」
もはや呂律すら怪しい問い掛けと、ずらした俺の手の下からこちらを覗く美しい翠玉。
何処か必死な色を宿したその瞳にパチクリと瞬き、困ったように笑った。
「名乗るほどの者ではありませんよ」
俺の答えに抗議のように一瞬手に力が籠り、だけどすぐにその手も力を失った。
力を失ったその躰を抱き留め、手袋についた眠り薬を払ってから彼女を抱き上げた。
その後はクリスティーヌ嬢を安全な場所へと寝かせ、影数人を邸宅へと完備したまま俺達は会場へと戻った。そしてソラと合流して不法侵入の俺達は一足先に転移で屋敷へ帰宅。
後のことは騎士団へお任せ。
……と、言っても俺も後日また呼び出し喰らうけど。
憂鬱ー。
何はともあれ、全員救出成功です!
111
お気に入りに追加
477
あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

妹ちゃんは激おこです
よもぎ
ファンタジー
頭からっぽにして読める、「可愛い男爵令嬢ちゃんに惚れ込んで婚約者を蔑ろにした兄が、妹に下剋上されて追い出されるお話」です。妹視点のトークでお話が進みます。ある意味全編ざまぁ仕様。

傍観している方が面白いのになぁ。
志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」
とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。
その彼らの様子はまるで……
「茶番というか、喜劇ですね兄さま」
「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」
思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。
これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。
「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

乙女ゲームはエンディングを迎えました。
章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。
これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。
だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。
一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。

押し付けられた仕事は致しません。
章槻雅希
ファンタジー
婚約者に自分の仕事を押し付けて遊びまくる王太子。王太子の婚約破棄茶番によって新たな婚約者となった大公令嬢はそれをきっぱり拒否する。『わたくしの仕事ではありませんので、お断りいたします』と。
書きたいことを書いたら、まとまりのない文章になってしまいました。勿体ない精神で投稿します。
『小説家になろう』『Pixiv』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる