ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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 そしてそんな仕掛けに引っかかる愚鈍は影にはおらず(ソラ非戦闘員だから除外)、見事に鉄格子が落ちる前に部屋の奥へと避難済み。

 唯一引っかかる可能性のあった俺はハンゾーに抱えられ宙を飛んでました。

 ランじゃなくて良かった…淑女にしか見えないランに軽々と抱えられたら確実にハートが凹む。

 グガァァァアォォォゥゥッッ!!

 鉄格子越しに怒りの咆哮を上げる虎さん。
 おおぅ、ご馳走に手が届かずご立腹ですね。

 頭を抱え込むように耳を抑えて悲鳴を上げるクリスティーヌ嬢の、せめて視線だけでも遮ろうと鳥籠の前へと背を向けた。

「このままいける?」

 鉄格子を取り払わないと闘いにくいかと問いかけるも問題ないと答えられた。その方が彼女も安心だろうと。
 確かにこっちに来られたら怖いだろうなと後を任せる。

 鳥籠から数歩離れた小さなテーブル。
 その上にあった鍵を手にした。
 籠の中から精一杯手を伸ばしてギリギリ届かない、そんな悪趣味な位置に置かれたそれは思った通り鳥籠のもので、開いた入口から中へと入る。

「クリスティーヌ嬢」

 カタカタと震える彼女へ怖がらせないように声を掛け、仮面越しに微笑みかける。
 震える手を取り、華奢な躰を支えながら脱いだ上着を彼女の頭へと被せた。

 狭い入口を通り抜け、鳥籠の外に出た彼女をそっと抱きしめれば腕の中の躰が一瞬強張るのに気づいた。
 だけどそのまま小さな頭を胸へ押し付けるように抱え込む。
 見知らぬ男に抱きしめられるのは不本意かも知れないが眼と耳を塞ぐ役割ぐらいは果たすだろう。ほら、戦闘中だから。

「すぐに騎士団が来てくれますから、もう大丈夫ですよ」

 正体不明の俺らより安心出来るだろうとその存在を耳元で告げれば、強張っていた肩から力が抜けた。

 そうこうしている内に猛獣の鎮静化は終わったらしく、眠るように倒れ伏した虎が鉄格子の中にいた。その躰から数本の飛針が見えるのと出血がほぼないことから見るに麻痺毒か何かだろうか。

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