ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

文字の大きさ
上 下
298 / 401

覚悟と決意と、記憶に焼き付いた声 4

しおりを挟む


「意外?」

 問いかければ、彼はこくりと頷く。

「正直、かなり」

 素直な返答に曖昧に笑う。

「俺も自信ないけどね。いざって時に尻込みするかも知れないし。だけど、覚悟だけはしとかなきゃって思ってるよ。迷って、間違って、全部失ってしわまわないように」

「取り敢えず、だ」気合を入れるように俺は拳を握った。

「俺が今できることは子育てを失敗しないことだ!!」

 力強く宣言した俺をカマルくんが不思議そうに見てます。あと多分隣の彼も。

「子育て…」

「そう!要はマオが魔術や感情を暴走させない術を見につけて、あの子が人間を嫌いにならないように愛情をもって素直な良い子に育てればいいわけだろう」

「良い子な魔王…」

 首をこてんと傾けたカマルと彼が見つめあう。

「大丈夫、多分出来る!!」

 何せ俺は、悪役令嬢と俺様攻略対象者をあんな天使に育てあげた男!!

 勿論、二人の元々のポテンシャルと天使属性を活かしたに過ぎないが、マオだってあんないい子だし。
 うん、いける。

「着地点、そこでいいの?」

 胡乱気に突っ込まれたが、問題が起きないのが一番平和じゃんか。

「まぁ、魔族の方が人間よりよっぽど素直でわかりやすいし。貴方に育てられたらほわほわした子に育つかもね」

「それ褒めてる?貶してる?」

「どっちでもない」

「でも魔族って不思議だよなー。自然発生とか成長速度とか」

「そうだね。でも不思議なのは人間の方かもよ?自然界じゃ自立が早くなきゃ生き残れないし、必要とされて生まれる王、本能に従った生き方、人間よりもずっとシンプルで合理的じゃない?」

「ある意味そうかも」

「人も国やら王やら、しがらみに縛られず自由に生きれればいいのにね」

「や、それはそれで大混乱が起きそうな気も」

 統制がなくなった人間を思い浮かべてそう返すも彼は小首を傾げた。

「でも、愚かだと思わない?血だの係累だのに拘ることを。現に貴方の知り合いの女の子たちだってその所為で沢山の人たちに狙われ、利用されそうになってる。魔族みたいに相応しい者が王になればいいのに」

 珍しくも饒舌じょうぜつに語る彼を不思議に思った。

「幸いにもこの国の王は優秀みたいだけど。王たる資格を持つ者が王たる資質を持つとは限らないのにね。それでも奴らが尊ぶのはその血筋だ」


 この時の声を。


「それなら」


 紡がれた彼の言葉を、俺はずっと覚えていた。


「その血がそんなに尊いなら、玉座に鮮血でもぶちまけておけばいい。
 それか瓶詰にした血液でも空の玉座に転がしておけばいいのにね」


 何故か鮮明に記憶に残ったその言葉を、俺はありありと思い出すことになる。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

転生ヒロインは乙女ゲームを始めなかった。

よもぎ
ファンタジー
転生ヒロインがマトモな感性してる世界と、シナリオの強制力がある世界を混ぜたらどうなるの?という疑問への自分なりのアンサーです。転生ヒロインに近い視点でお話が進みます。激しい山場はございません。

処理中です...