ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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赤ちゃん、拾いました 2

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「どうせ世話など一週間も満たない。数日もあれば成長し身を守れる術くらいつく、何も出来ない赤子では生き抜くことなど出来ないからな。魔獣の子などそれこそ生まれて数時間で立ち上がるぞ?」

 ジスト曰く、赤ちゃん期間はほんの数日。
 数日後には自分でものを考え、歩行できるようになる程度に成長するのは当たり前。人間とは根本的に成長速度が異なるらしい。

 生後一か月に満たず大人の姿になる者も居れば、子供の姿のまま一生を終える者も居る。
 外見で年齢は図れないし、そもそも年齢の概念じたいあまりないとのこと。

 蝶やなんかで例えると核としての存在は蛹の期間、孵化してから一番無防備な一瞬が今で、その後はすぐに飛び立てる的な感じだろうか。

「俺様のもとなら安心だし、万が一ソレが暴走しようといくらでも対処出来るだろう?」

 申し出は有り難い。
 とてつもなく有り難いのだが。

「赤子の世話なんて出来るのかい?」

「問題ない」

 言うや否や、むんずと俺の腕の中から赤ちゃんを鷲掴むジスト。

 ぐわしっ、と頭を掴んで吊るされた赤ちゃんは驚いたように躰を揺らし、次いで大声で泣きだした。
 その泣き声に呼応するように樹々がざわざわと揺れる。それは覚えのある反応だった。

 再び魔獣を使役しようとしているのか、暴れる赤子をジストは顔の前まで持ち上げる。

 ぱちりと開かれた瞳は金緑色とでもいうのだろうか。
 光が反射して金を帯びたように見える緑がかった瞳がジストのアメシストの瞳とバッチリとかち合う。

 と、

 次の瞬間、堰をきったように手足を振り乱して泣きだした。
 大号泣である。

 どこが「問題ない」だ、むしろ問題しかない。

 コイツに子育ては無理だ。

 そう確信した俺は再度ジストの手から赤ちゃんを奪還した。

 両の手で抱え持ち、軽く揺らしながら温かな背をゆったりとテンポを付けて叩く。
 涙でいっぱいな金緑色の瞳を覗きこんで安心させるように笑いかける。

「いい子、いい子。ほぅら、怖くないよ」

 慈しむように、歌うように静かに語りかければぱちぱちと瞬いた瞳がほにゃりと溶けた。

「あ~、あ~、うっー!」

 小さな手がわきゃわきゃと伸ばされるのに、肩から前へ垂らした髪を背へ払う。
 経験上そうしないと大変なことになるのは知っているからな。
 引っ張られるならまだしも、最悪喰われる。
 よだれでべっとべっとにされる。

 ご機嫌に笑いながら手を伸ばしてくる赤ちゃんは普通に可愛い。
 そして騒めいていた樹々も止んだ。この子の感情に反応してるのは確かなようだ。

「何故俺様の時は大泣きしたのにご機嫌なんだ?」

 不満気なジストに、それはお前の扱いが悪いからだよと心の中で返す。

 何時の間にか俺へと集まる幾つもの視線。

「その子の世話するの、お前が適任じゃねぇ?」

 ディークがぽつりと呟き、騎士達が大きく頷いた。
 そんなこんなで、またしても数の暴力によって俺が保護することに決定された。

 俺の人権ってどうなってんの?

 そして何より、魔族って何食べるかわかんないんですけどー!?

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