272 / 399
願いはちゃんと通じてた(けど異常に怯えてた) 3
しおりを挟む俺がホールへと足を踏み入れるとざわざわとしたざわめきが一段と大きくなった。
そして歩けば道が空く。
モーセか……。
人の海を割りながら弟たちのもとへと向かえば、彼らからも駆け寄ってくれた。
「黒竜にこちらに危害を加える意思はないようだ。とはいえ、今日はこのまま学園祭を続けるわけにもいかないからお開きかな。あと一時間程で城から騎士団が派遣されるから帰宅はその後。明日以降は当初の予定通りで問題ないだろう」
「あと一時間で騎士団が到着…?」
ダイアが疑問の声を上げた。
まぁ、城へ報告を向かわせて戻るまでに往復二、三時間はかかる。数十分の間に報告が終わって騎士の到着時間まで把握してるのはどう考えたって可笑しい。
ソラの転移だの影たちの鳥を使った伝達方法による裏技の結果だ。
「黒竜に危害を加える意思はないと仰いましたが本当に大丈夫なのですか?」
続くシリウスの問い掛けにも頷く。
「ええ、被害を出させるつもりはありません。例え黒竜の姿で火炎を吐いても防ぐ手立てはありますし、こちらの攻撃が通じることも先程証明してみせたでしょう?何より最終手段もありますし」
ソラによる転移でバイバイキーン♪って手もあるし。
口をポカンと開いて呆気にとられる子供たちへと含みを持たせて笑いかける。
「切り札はいくつあっても困らないでしょう?」
いやぁ、周りが優秀って素晴らしい!
凄いのは断じて俺じゃないけどね。
「生徒たちも不安がっているだろうから状況を報告してあげて」
今も皆こっちに大注目だし。
壇上へどうぞ生徒会長サマ。
「私は一度リフたちの元へ戻るよ。心配だし…」
「今はカイザー殿の従者殿たちだけなのか?大丈夫なのか?」
「……正直、心配なのはリフたちじゃなくて黒竜の方なんですけどね。うっかりやっちゃわないか心配です」
この場合のやっちゃうは勿論、殺すと書いて殺っちゃうね。
俺の言葉に再び口をポカンとさせる一同…。
わかる、その反応。
そして俺の腰に剣がないのを見て、彼らを知る弟妹とサスケは「ああ…」って納得の表情。
わかるよ、その反応も。だってリフとハンゾーだし。
取り敢えず、俺の悪口だけは言うなジスト。
逆鱗に触れさえしなければ二人は多分安全だから!!
「傷、治ったんだね」
手を伸ばして親指でガーネストの頬をそっと撫でる。
「カトリーナ嬢ですか?」問いかければ頷いた彼女へ礼を告げた。
「ベアトリクスももう怖くない?」
「は、はい。平気です」
人前で泣いてしまったことが恥ずかしいのか赤くなって俯く妹へ「良かった」と笑いかける。
「じゃあ、ここは宜しく」
頼もしい返事を返してくれたガーネストたちにこの場は任せ、近くに居た教師に掻い摘んだ説明だけした俺は壇上に立った弟の声を背に踵を返した。
ジストの首と胴体が繋がっていることを願って。
135
お気に入りに追加
472
あなたにおすすめの小説
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?

公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。

断罪イベントの夢を見たから、逆ざまあしてみた
七地潮
ファンタジー
学園のパーティーで、断罪されている夢を見たので、登場人物になりきって【ざまぁ】してみた、よくあるお話。
真剣に考えたら負けです。
ノリと勢いで読んでください。
独自の世界観で、ゆるふわもなにもない設定です。
なろう様でもアップしています。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。

悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。

乙女ゲームはエンディングを迎えました。
章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。
これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。
だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。
一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる