ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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願いはちゃんと通じてた(けど異常に怯えてた) 3

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 俺がホールへと足を踏み入れるとざわざわとしたざわめきが一段と大きくなった。
 そして歩けば道が空く。

 モーセか……。

 人の海を割りながら弟たちのもとへと向かえば、彼らからも駆け寄ってくれた。

「黒竜にこちらに危害を加える意思はないようだ。とはいえ、今日はこのまま学園祭を続けるわけにもいかないからお開きかな。あと一時間程で城から騎士団が派遣されるから帰宅はその後。明日以降は当初の予定通りで問題ないだろう」

「あと一時間で騎士団が到着…?」

 ダイアが疑問の声を上げた。

 まぁ、城へ報告を向かわせて戻るまでに往復二、三時間はかかる。数十分の間に報告が終わって騎士の到着時間まで把握してるのはどう考えたって可笑しい。

 ソラの転移だの影たちの鳥を使った伝達方法による裏技の結果だ。

「黒竜に危害を加える意思はないと仰いましたが本当に大丈夫なのですか?」

 続くシリウスの問い掛けにも頷く。

「ええ、被害を出させるつもりはありません。例え黒竜の姿で火炎を吐いても防ぐ手立てはありますし、こちらの攻撃が通じることも先程証明してみせたでしょう?何より最終手段もありますし」

 ソラによる転移でバイバイキーン♪って手もあるし。

 口をポカンと開いて呆気にとられる子供たちへと含みを持たせて笑いかける。

「切り札はいくつあっても困らないでしょう?」

 いやぁ、周りが優秀って素晴らしい!
 凄いのは断じて俺じゃないけどね。

「生徒たちも不安がっているだろうから状況を報告してあげて」

 今も皆こっちに大注目だし。
 壇上へどうぞ生徒会長サマ。

「私は一度リフたちの元へ戻るよ。心配だし…」

「今はカイザー殿の従者殿たちだけなのか?大丈夫なのか?」

「……正直、心配なのはリフたちじゃなくて黒竜の方なんですけどね。うっかりやっちゃわないか心配です」

 この場合のやっちゃうは勿論、殺すと書いてっちゃうね。

 俺の言葉に再び口をポカンとさせる一同…。
 わかる、その反応。

 そして俺の腰に剣がないのを見て、彼らを知る弟妹とサスケは「ああ…」って納得の表情。
 わかるよ、その反応も。だってリフとハンゾーだし。

 取り敢えず、俺の悪口だけは言うなジスト。
 逆鱗に触れさえしなければ二人は多分安全だから!!

「傷、治ったんだね」

 手を伸ばして親指でガーネストの頬をそっと撫でる。
「カトリーナ嬢ですか?」問いかければ頷いた彼女へ礼を告げた。

「ベアトリクスももう怖くない?」

「は、はい。平気です」

 人前で泣いてしまったことが恥ずかしいのか赤くなって俯く妹へ「良かった」と笑いかける。

「じゃあ、ここは宜しく」

 頼もしい返事を返してくれたガーネストたちにこの場は任せ、近くに居た教師に掻い摘んだ説明だけした俺は壇上に立った弟の声を背に踵を返した。

 ジストの首と胴体が繋がっていることを願って。



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