ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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朔の夜は終わりを告げる 3

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 軽やかな曲に乗り、華やかに翻る色彩。

 そして、音楽が鳴り止んだ途端に俺の周りに群がるご令嬢。

 椅子取りゲームか!
 思わず心の中で突っ込んだ。

「カイザー様、踊って下さいませんか?」

 上目使いで誘ってきたのはイザベラ嬢。

「あっ、ずるいわ!!」

「先生、私と…」

 それを皮切りに競うように声を上げるご令嬢方。

「申し訳ありません、今日は警備も兼ねて会場の全体を見守れる位置に居たいので。是非またお誘い頂けますか?さぁ、次の曲が始まってしまいますよ?」

 ちょっと眉を下げて申し訳なさをアピールしつつ、体よく断る俺。流れ始めた前奏に少女達を促せば残念そうにしつつも去って行く少女達。


 不意にシトリンの瞳とぶつかる。
 若干プンプンしてるベアトリクスに苦笑いしながら小さく手を振れば、すぐに笑顔に戻ってパートナーへと向き合った。

 ご不満の理由はきっと先程声を掛けてきたイザベラ嬢だろう。

 高等部に入る前から何かとベアトリクスと対立してきたイザベラ嬢。愚痴によく上がる名前なのに詳しい内容をあまり耳にしたことがないことからも、原因がきっと俺の悪口だったんだろうなというのは簡単に予想がつく。

 ……が、意外なことにイザベラ嬢の俺へのあたりは非常にいい。
 嫌味をいわれたこともなければ、見下すような瞳を向けられたこともない。

 顔か、所詮しょせん顔なのか!!

 そんなこんなでイザベラ嬢の俺への対応はとても好意的なのだが、ベアトリクスはその掌返しも気に入らないらしい。

 壁際に立ち、始まったダンスを眺める。
 学園主催のダンスパーティーは滞りなく和やかに開催されていた。
 意中の相手や友人と楽し気に手をとりあったり、恋の駆け引きや失恋といった甘酸っぱい遣り取りがそこかしこで繰り広げられている。
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