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それは畏怖を孕んだ羨望に似た 3

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(ナディア視点)


 挙句の果てには私やリリー様を心配してくれた先生に八つ当たりで怒鳴り散らした。
 溜め込んだ不満も鬱憤も先生に向けるべきものじゃなかった筈なのに。

 合宿の初日、突如フードの男達に襲われた私たちをアレクサンドラ様もシリウス様も必死に守ってくれた。お二人があんなに強いことも吃驚したけど、何よりも吃驚したのは二人が本気で私たちを守ってくれたこと。

 だってアレクサンドラ様は王子様なのに。

 傷を負いながらも、皆を守ってくれた。
 リリー様も必死に道を探して、危険な崖から皆を助けてくれた。

 自分が酷く恥ずかしくて情けなかった。
 彼らが心の底では私のことを見下していると思っていた自分が。

 他でもなく、立場や身分でしか相手のことを見ていなかった自分が。
 弱くて、役立たずな自分自身が。

 フードの男達から逃げるうちに森の奥へと追いやられ、攻撃を避けた際にリリー様が足を縺らせてしまい、ロイ様はティーナ様を庇おうと振り払われ、ティーナ様は奴らの一人に捕まってしまった。

 そんな時、先生たちが現れた。

 先生はまるで状況を理解していないかのように自然体で、あろうことかティーナ様の代わりに人質を申し出た。最初は警戒していたフードたちだけど、先生を知っていたらしく奴らの口から出た『無能』の言葉。




 その言葉に胸が酷くざわついた。

 そして、刃が押し当てられたその瞬間、ゾッとするような恐怖を感じた。
 そこからは一瞬だった。

 あっという間にフードの男を倒した先生と、闇が実体化したよう何時の間にか現れた黒衣の人影。フードの男達は全員音もなく地に打ち伏せられていて、先生と話していた口布をした男の人から突如溢れ出た威圧感に、ああ、さっきのアレは殺気と呼ばれるものだったんだと恐怖の正体を悟った。

 それで終わりだと思ってたのに、魔獣の群れが現れて。
 闇に底光りする赤い瞳に、恐怖を感じていた筈なのに、
「大丈夫」「怖いことは何もない」綺麗に微笑む先生の言葉に恐れは全て拭われた。

 夜の森を抜けるのは危険だからコテージで一晩明かすことになって、まさかの先生が料理をしてくれることになった。
 最初は不安もあって手伝いを申し出たのだけど、正直手伝いなんて不要なぐらい上手だった。
 久々の料理は楽しくて、意外な作業をしてる先生からはあの浮世離れした雰囲気が薄まって、いつもより自然に話をすることが出来た。

 そしてあの日の謝罪も。

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