ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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空回りへの序章 3

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(リリー視点)


 転生者が居るとして、別にその行動に不満はない。

 そりゃあ折角ヒロインに転生したんだからラブラブあまあまな展開を邪魔されたくはないけど、ベアトリクスちゃんが不幸になるのは私も反対だし。

 それにラブあまイベントは魅力的だけど……正直現実的にはどうかっていうのもあるのよね。

 何せこれは現実。
 ゲームなら単純にときめいてられたけど、実際VIPな攻略対象者たちと結ばれたとしてその後やってけるかという問題が……。

 だって高位貴族に王族に果ては魔族。ぽっとでの小娘に現実的にそのお相手が勤まるというのかというね。ハッピーエンドのその先があるわけだもの。

 それに……………。
 現実、だからこそ________バッドエンドは赦されない。


『亡国のレガリアと王国の秘宝』はどちらかというとソフトな乙女ゲームだ。

 ありがちな攻略対象者たちの心の傷もそう深いものでないし、悲惨な過去もない。悪役令嬢だって断罪はされるけど死亡エンドはない。バッドエンドだってヤンデレ監禁エンドもなければ、ジャウハラとの戦争やジストの王都来襲だって文章でサラッとだった。

 ヤンデレ好きや一部のユーザーには物足りなかっただろうけど、グロやうつ展開がなしに甘い恋物語を安心して楽しめるのが幅広い年齢層でヒットした要因だと思う。

 一番は何といっても美麗なキャラデザだけど!!

 ゲームではサラっと流せる展開でも、現実では戦争も黒竜の来襲も大参事だ。

 ヒロインの選択でその未来が決まるのかも知れないと思うと……正直息が詰まりそうになる。
 息の仕方も忘れそうになるくらい、不安で、怖くて堪らない。

 その選択肢を握るのが未来を知る私で良かったと思う一方で、どうして私なのっていう気持ちがせめぎ合う。

 だから、
 逢いたい。

 もしも私以外にも、転生者が居るのなら。

 この世界の道行きを知る人が居るのなら、バッドエンド最悪を回避する為に私たちは協力者になれる筈。

 この『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界で生きる住人として______。

 確かめなきゃっ!

 ノートの隅の「転生者?」の落書きをシャープペンシルでぐるぐると丸をつけて、私はそう決意した。

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