ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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肉球、それは魅惑の癒し 3

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 あれから俺はこの図書室の常連になった。

 うっかり素をさらしてしまったあの日。
「興味がない」の言葉通り、少年は俺の奇矯な言動について何も詮索してこなかった。

 本以外にはほとんど興味を持たない性格はゲームでも知っていた。

 何か聞けば答えてくれる、だけど相手に興味は抱かない。
 普段、素を押し殺してる俺にとってそれは酷く心地良かった。ストレスが色々限界だったのもある…。

 以来、俺はリフが来ない日は人目を忍んでふらりとここを訪れては他愛のない愚痴や世間話を零し、カマルと戯れている。

 色々溜まってたんだなぁ…と自分のことながら他人事みたいに思う。

 家族でもない、部下でもない、敵でも味方でもない、俺に興味を持たない人間。
 そんな相手だからさらせる弱音。

 そしてやっぱり自分が転生者だってことはバラさないで正解だなと改めて思う。

 これは駄目だ。

 素の自分だって、さらすつもりなんてなかったのにこの様だ。
 転生者だってことも、俺の異能のことも、さらしてしまったらきっとどんどん流されて“カイザー・フォン・ルクセンブルク”を保てなくなってしまう。

 権力も立場も、まだ失う訳にはいかないから、あの黒鳥の皮を脱ぎ捨てる訳にはいかない。


「名前、何ていうの?」

 答えてくれないだろうなーと知ってて問いかける。

「……カマル」

「違う。その子じゃなくて、お前の名前」

「さぁ?」

 やっぱり答えてくれなかった。

 まぁ、ゲームでも自分のことだけは絶対教えてくれなかったから知ってたけど。あんま深入りすると無視して会話してくれなくなるんだよな、確か。設定を思い返し諦めて肩をすくめていると逆に問いかけられた。

「どうしてこの子の名前がカマルだって知ってるの?」

「……」

 ゲームの知識で。
 色々答えられないのも、答えたくないのもお互い様だった。

 そんな遣り取りを経て、カマルのことは名前呼びだけど少年の名前は不明なまま。

「別に僕たちしか居ないし困らないでしょ?」

 そんな風に軽く言われたけど、呼び名がないっていうのはやっぱり不便だ。

 いっそ妖精さんとでも呼んでみるか?
 普通に「好きにすれば」って受け入れられそうだな…。

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