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圧倒的ダークサイド感 4
しおりを挟む肩のマントが邪魔なので一度取り外し、軽く手首を廻しながら呼吸を整える。
女性に触れるように優しく、白と黒の鍵盤へと指を下ろす。
ポロン、と零れる音色。
最初は優しく、穏やかに。戯れるようなタッチで。
指はやがて滑らかに鍵盤の上を駆け、旋律は徐々に軽やかに。
軽快な音色はやがてもの哀しい印象へ、嘆くように、深い慟哭を抱くように。和音を交えた静かな音色が先程とは一転して静かに、美しく響く。
湖に揺らぐ月光のように儚いそれはやがて荘厳さを帯び、鍵盤を叩く指の力が増していく。
激しさを増す曲調に低音域から高音域まで長い指が舞い踊り、華やかで荘厳な旋律はやがてクライマックスを迎える。
一際強く鍵盤を叩く動きに背がしなり黒髪が揺れた。
名残惜しむように柔らかな音色と共にそっと鍵盤を離れる指先。
拍手はなかった。
声も、呼吸の音すらも聴こえない。
「我が親愛なる友にして、次期王たるティハルト様に捧げます。ご生誕、心よりお慶び申し上げます」
右手を肩に添え一礼すれば、瞬間、爆発的に鳴り響く拍手。
感嘆と称賛を浴び、手にしたマントを羽織りつつ男を横目で見れば眼も口も見開いて呆然としていた。
にこりと優雅に微笑みかけつつ、内心で舌を出す。
残念でした。
俺は前世でもピアノを齧ってたし、今世では超一流の芸術家を家庭教師にして幼い頃から才能を伸ばしてたんだ。他の楽器も習ったけど、やっぱアドバンテージがあると違うよね。
前世の腕前はさほどではなかったけど、初めて楽器に触れる子供としては上手いわけで。
出来て褒められれば意欲も沸く。そんなこんなで一番力を入れたのがピアノだ。
因みに前世ピアノやってたのは姉の影響。
小さい子ってお姉ちゃんとかがやってると「自分もやるー!」っていったりするじゃん?
俺は覚えてないけどそんな感じだったらしい。
口々に褒めたたえる人々をそつなく躱しながら、俺は目的の人物へと歩を進めた。
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