ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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主として成すべきこと 3

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 正にそれを尋ねるために呼んだアインハードへ視線を向ければ、

「アンジェスの末裔を名乗る輩も、そいつらを擁立ようりつして祭り上げる輩もいつの世にも後を絶たないからな。それなりに話は聞く。だけどどれも出所の不確かな噂ばかりだ」

 ただ、と。
 口元を歪める動作に頬の傷痕も歪む。

 皮肉気に歪められた唇と裏腹に、こちらを見据える眼光は真剣そのもの。

「万が一、有力な王位継承者を名乗る奴が現れたら状況は一気に動くぜ?未だアンジェスの再建を願う連中は多い。貴族にも平民にも、そして何より俺達みたいな半端モンにはな」

「新たな国家の誕生を望んでいる、と?」

「望んでこの仕事に就いてる奴らばかりじゃねぇからな。行き場のない奴、現状に不満のある奴、国や立場に関わらずそういった連中にとって夢の国の再建は理想的なんだろうよ」

「再建した国が理想通りとは限らないでしょうに」

「それこそ関係ねぇんだろ。今に不満があるやつってのは、現状を嘆いて夢を見るだけだ。他力本位でその不満を解消しようとしもしねぇ。再建した国が理想通りでなかったらまた愚痴を零しつつ新たな夢を見る。何を成すことも背負うこともなく、批判だけしてりゃいい。ある意味楽で満足な人生なんじゃねぇの?」

 心底莫迦バカにしきった冷めた笑み。

 そうはいうものの、そういった民衆は割と多い。

 特別な才能もなく、不満を抱えながらも現状を打破出来る術もなく。
 もしかしたらその術はあるのかも知れないが行動に移せるだけの意欲も、不満は有れど遮二無二なれる程の焦燥も切迫もない。

 元一般庶民の俺としてはその気持ちもわからなくともない。

 それに、数の力は大きい。
 そういった不平・不満が原動力を得て動き出した時の爆発的な力を、今世では人の上に立つ立場にある俺としては見過ごすことは出来ない。

「不穏な動きがあればご報告願います」

「ああ。わかってる」



「皇子が誕生しているという話、あれはどうなんですか?」

 リフの問い掛けに影に眼をやれば、重々しく首を振られる。

「現在に限らず、以前からその噂も過激派の集団が居るという話も耳にはしますが有力な手掛かりは得られていません」

「噂は散在してるけどね。殆どが根も葉もない作り話だろう。私が学園に居る時もアンジェス王家の男児がいると噂があった」

 優秀なうちの忍者集団でもつかめないとなるとやはり眉唾だろうか。

 そもそも王家の末裔だと示す根拠がまず難しい。
 当の王家・国が滅びているわけだから大半は自己申告。今回のヒロインたちのように偶然発見され、かつ王家に由来する物品を所持している例は珍しい。

 下手な話、確実に王家の血筋だと保証出来る事例なんて皆無だ。

 王家以外でも単純にアンジェスに縁があったという者ならそれこそ至る国に沢山居る。かの国と交流のあった国、貴族、商人。一夜にして滅んだその国、その時に偶々国を離れていた生き残りの子孫たち。

 全てが嘘だとは思わない。

 だけど結局の所、祖先がアンジェスと縁があったと語るのもその者達の自己申告しか信じることが出来ないのが現状だ。

「報告は以上かい?」

 俺の問い掛けに一同が頷く。


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