ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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 パァッンッ!!

 やけに響く破裂音。
 そして、一瞬後に頬に感じたのは痛みよりも熱さだった。

「兄上っ!?」
「お兄様っ!?」
「カイザー様っ!?」

 俺を呼ぶ幾つもの声。

 遅れてやってきた痛み。眼の前に立つ相手の華奢な繊手。
 その指輪にほんの少し赤いものが付いているのを見て、ああ、ひりつく痛みは指輪が引っかかったのかと思う。

 小さく震える手と肩。

「母上っ!!」

 灼熱の瞳を怒りに燃やし、僅かに手を上げたガーネストのその手を掴んだ。

「駄目だよ、ガーネスト」

 無意識に持ち上がったのだろう手を抑えて静かに首を振ればはっと瞳を見開いて、次いで唇を噛みしめるガーネスト。

「手が腫れてしまっては大変です。直ぐに冷やす物を。義母上は気が昂っておられるようだ。お茶をお淹れして」

 義母のメイドに目配せすれば、慌てて頭を下げつつ義母を部屋へと連れて行く。
 呆然としたまま抵抗もせずに背を支えられ連れられる女性。


 俺はといえば。

 すぐさま大袈裟すぎる手当を受けた。赤くなった頬を冷やされ、指輪が当たった場所がほんの少し皮がめくれ出血していた。
 そして悲鳴。
 いや、治るから。こんな小さな傷すぐ治るからそんな嘆かないで。

「お兄様のお顔がっ!!」

 泣き出したベアトリクスを宥め、おろおろする使用人たちを落ち着かせ、怒りを燃やすリフたちを諭すこと暫し。

 俺の頬はでっかいガーゼで覆われていた。
 怪我に見合わぬ厳重すぎる手当…。

「ガーネスト」

 呼びかければまるで叱られたみたいに肩を震わすガーネスト。
 不安そうなその姿は何処か義母と似ていて。

「少し、話をしようか。ついておいで」


 向かった先は俺の書斎。

「座って」

 向かいのソファを手で指し示せば、素直に応じるガーネストの表情はいつもと違って覇気がない。

「こうして二人きりで話すのは久しぶりだね」

「……兄上っ、……申し訳ありません!」

 勢いよく頭を下げる金色の旋毛。
 それを見て、場違いにも微笑ましさが込み上げる。
 幼い頃はずっと見下ろしてきた旋毛、今はまだ俺の方が身長は上だけど背が近しくなるにつれ変わってきた目線。本当に大きくなったなぁとしみじみと思う。

「頭を上げて。どうしてガーネストが謝るんだい?」

「それはっ…。母上が……それに元はといえば俺の発言の所為で…」

「誰も悪くないよ。だからあまり義母上を怒っては駄目だよ」

「ですがっ!!」

「ガーネスト」

「……」

 静かに名を呼べば、口を閉ざしたガーネストに「いい子だ」と微笑む。


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