ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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足を向けては寝られない 3

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「有難う御座いました。またのお越しをお待ちしております」

 綺麗な笑顔を披露しつつ最後の客を見送るルーシェさん。他、数名のお姉さん。
 完全にお客さんが見えなくなったところで繰り広げられるガッツポーズとハイタッチ。

「皆さん、お疲れ様です」

 小部屋から出て声を掛ければ途端に上がる嬌声。但し心の中で。

 おお、凄い!!

 心の声は『きゃー!!』って嬌声を上げてるのに、こちらに丁寧に「お疲れ様でした」と返してくれるお姉さんたちの表情は完璧なるアルカイックスマイル。
 心の内など少しも見せないアルカイックスマイルに接客スキルの高さを見た。

「今日は初日ですが、明日からも宜しくお願いしますね。それとこれを」

 俺の言葉と共にお姉さんたちに配られる小さな小箱。

「これは、もしかして」

「はい。マカロンとショコラのセットです。お店の味を知って頂くためにも是非どうぞ。それと」

 急なプレゼントに驚くお姉さんたちにくすりと笑う。

「『リリアーナ』の宣伝にも是非ご協力ください」

 小箱にリボンと共に括りつけられているのは小振りなチャーム。

 月や星、花など形は色々あるが繊細な細工に小粒ながら本物の宝石があしらわれていて、可愛すぎず可愛い大人の女性でも違和感のない仕上がりになっている。

「「「「「有難う御座います」」」」」


 店の目玉はマカロンとショコラ。

 可愛らしいカラフルなマカロンはこの世界にまだなかったことも相まって反響も滅茶苦茶高い。
 ショコラも繊細な細工が美しく、シックなショコラと愛らしいマカロンのセットは女性のハートを無事掴みまくった。

 更には包装に先程話に出たようなチャームや栞。
 制服姿では髪型ぐらいしか着飾ることができない学園では、小物が注目を浴びると聞いた俺は当初の予定通りチャームを主力にした。髪飾りとかでもいいんだけど、令嬢だと髪飾りは値の張るものを身につけるだろうしあまり値段を高くしすぎると貴族以外が手を出せなくなるしな。

 あともう一つ、小振りなピンブローチも主力にしようと思ってる。
 ピンブローチなら制服のタイやリボンの端にさり気無く付けられるし。(アクセサリー自体は校則で禁止はされていない。あんま派手だと注意されるが)

 種類は多すぎず少なすぎず。
 あまり数が多いと人の心理的に選べなくなる傾向があるからな。

 限定した種類で時期毎に内容を変えることで購入意識をそそることも出来る。期間限定とかの言葉に弱いのは何処の世界も一緒。それに一度集め始めれば他も集めたくなるのが人の心理。最初から種類が多いとそうはいかないが、あと三つで全部制覇とか実現可能な種類の方が手が出やすいものだ。

 お店の一角では包装に使ってる小振りなチャームとは違い、もう少し華やかで大ぶりのアクセサリーのショーケース。こちらはお値段も少し高め。

 お菓子の方は貴族でなく裕福な層でも手が出せる感じで、ショーケースのアクセサリーは貴族狙いでがっつりお金を落として貰おう。と、いっても貴族にとってははした金だろうけど。


 初日はまさかの閉店時間を待たずに完売。
 幸先も良好です。

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