ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

文字の大きさ
上 下
46 / 399

甘い誘惑 2

しおりを挟む


「どういった商品なんだい、シェフに似たものをお願いする?」

 随分と話題になったシュークリームはうちのシェフも作れる。

 完成品から工程を逆算しレシピを習得。
 その過程では前世の知識を持つリリア(料理の技術は期待できないためあくまでふわっとした情報提供)や作り方を知ってる俺のさり気無いヒント(転生者バレを防ぐためあくまで思いついた風を装って情報提供)も盛り込まれている。

 なので完璧とはいかずとも似たようなお菓子なら作成可能だろうと提案するも、ベアトリクスは首を振る。

「限定品のが食べたかったんですの」

「無いんだから仕方ないだろう」

「わかってるわっ!でもイザベラ様ったら私たちに凄く厭味ったらしく自慢してくるんですもの。しかもわざわざ販売期間が終わった後で!」

 くだんの令嬢を思い出してぷんぷんとむくれる妹の頭をガーネストが雑に撫でる。
 何だかんだで仲良しな微笑ましい光景が尊い。

「別にその商品が純粋に食べたいわけじゃないのか」

「それもあるけど悔しいんだもの」

「トーマスの作ったお菓子も絶品だと思うよ?」

「私もトーマスの作る料理は大好きですわ。でも特別がいいんですもの」

 ふむ、とひとつ頷く。

 店では買えない、シェフの作ったお菓子では特別感がないというのなら……。

「では、私が作ってあげようか?」

「「「は?」」」

 さらりと言った言葉に驚きの声。
 真ん丸な一同の眼が可笑しくてくすくすと小さく笑った。

「お兄様が……?」

「ああ、私が作ったものでは特別感に欠けるかな?」

 悪戯っぽく瞳を細めてベアトリクスを覗きこめばぶんぶんと首を振られる。

「兄上、シュークリームなんて作れるんですか?」

「多分問題ないと思うよ」

 驚きを込めたガーネストの問いに答えれば満面の笑みで立ち上がったベアトリクスが小走りで俺の傍にきて手を握る。

「お兄様が作ったお菓子なんて凄いですわ!是非食べたいですっ!!」

「そんなに期待されたら失敗するわけにはいかないな。何ならお友達も招待するかい?トーマスの作った絶品のお菓子もあればお友達も喜んでくれるのではないかな」

「宜しいのですかっ?!」

 きゃあ!と叫ぶベアトリクスは花開くような笑顔で。

 うん、拗ねた顔も可愛いけど笑った顔は何よりも可愛い。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

断罪イベントの夢を見たから、逆ざまあしてみた

七地潮
ファンタジー
学園のパーティーで、断罪されている夢を見たので、登場人物になりきって【ざまぁ】してみた、よくあるお話。 真剣に考えたら負けです。 ノリと勢いで読んでください。 独自の世界観で、ゆるふわもなにもない設定です。 なろう様でもアップしています。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

乙女ゲームはエンディングを迎えました。

章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。 これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。 だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。 一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。

処理中です...