ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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お兄様の域にはまだまだ遠いですわ 2

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(ベアトリクス視点)



流石さすがベアトリクス様ですわ。私、どうしても数学は苦手で」

「わかります、私もです。文学や刺繍なら得意なんですけど」

「あら、私はその方が羨ましいですわ。恥ずかしながら私刺繍はあまり得意ではないですもの…。それに数学も本当はあまり得意ではなかったんですけど、お兄様が教えて下さったの」

 私の言葉に華やいだ声が上がりました。

「まぁ、羨ましい!!」

「本当、羨ましいですわ。あんな素敵なお兄様がいらっしゃるなんて」

「しかも二人も!ズルいですわベアトリクス様。一人私の兄と交換して欲しいくらい」

「それこそ狡いわ!!それなら私も!」

 きゃあきゃあとはしゃぐ声に気恥ずかしくもあり、だけどとても嬉しくなります。


 私にはお兄様が二人居りますの。

 一人はガーネスト。
 一つ上の学年で生徒会長でもあるからこの学園に通ってる者なら誰もが知っていますわ。

 大規模なファンクラブまであって、私に会いにクラスに訪れる度に黄色い歓声が上がります。これはダイア様が一緒なこともあるのでしょうけど。

 確かに顔立ちは男らしく整っていて、文武両道な所は認めますわ。
 だけど私から言わせてもらえばもう少し紳士的になってほしいですわ。
 すぐ私をからかったりするし。喧嘩もたまにしますもの。

 頼りになるのは認めるけど……同時に私の憎きライバルでもあります。

 お兄様を取り合うライバルでもあるし、あとダイア様と私より仲が良いことも気にいらないですわ。
 昔は「お兄様」って呼んでたけど何だか気恥ずかしくて今は名前で呼んでいますの。


 そしてもう一人のお兄様。

 私の大好きなカイザーお兄様。

 お兄様のお母様は私たちが生まれる前になくなってお会いしたことはありません。
 だけど半分しか血のつながらない私たちをお兄様は本当に可愛がってくださった。

 私たちはお兄様に育てられたといっても過言ではありませんわ。
 勿論、メイドや屋敷の者達が面倒を見てくれたことは存じてますけれど。貴族の家庭ではよくあることで、お嬢様育ちのお母様はあまり育児というものに興味はなくて。
お父様も私たちが幼かった頃に亡くなってしまい、だけどそれらを補う程の愛情をカイザーお兄様が与えてくださった。

 艶々とした射干玉ぬばたまの黒髪に芸術品のごとき整ったお顔。

 長い睫毛に彩られた瞳は夜に輝く満月のよう。

 優しくて聡明で紳士で、動作の一つ一つから滲み出る気品と高貴。
 感情を荒立てることなくいつだって穏やかな微笑みを浮かべていらっしゃる様は優美の一言に尽きますわ。

 あのお顔であんな風に甘やかされれば私やガーネストがお兄様大好きっ子に育つのも当然というものですわ!


 絶対、絶対っ誰のお兄様とも交換なんてして差し上げませんわっ!!

 ……あんなのでも兄ですからガーネストも駄目ですからね。

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