ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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盾と矛 1

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「よぉ、カイザー」

 片手を上げニヒルに口元を歪めるイケオジ。

 これぞ異世界!というようなド派手な赤髪。そして頬に残る傷痕。
 だけど硬質なその髪も頬だけに留まらず逞しい躰中に残る傷痕さえも似合いすぎる男。

 “竜殺し”

 若かりし頃にそんな異名をとった元冒険者。

 相手は大型なドラゴンでなく唯の飛竜だと当の本人はことも無さげに笑うが、飛竜だろうと単独で挑もうとするのが俺的には充分頭が可笑しい。

 今は現役を退いてはいるが、その実力は十二分に現役として通用するレベル。

 そして、明らかに歴戦の覇者然としたこの人物は、何を隠そう俺の師匠である。

「お久ぶりです。師匠」

 自然と口にしてしまってから、しまったと小さく口元を歪める。
 背筋を伸ばして、もう一度呼びかけた。

「お久ぶりです、アインハード」

「おう!相変わらずだな。おめぇは」

 豪快な笑い声に「貴方も」と返す。

 昔の癖が抜けずに気が緩むとつい今でも「師匠」とそう呼んでしまう。
 俺が公爵代理となった時にケジメとして今後は名を呼ぶようにと言われたが、俺にとっては未だに鬼恐くて頼もしい師匠のままだ。

 俺自身も剣や体術を教わっていた頃は「坊主」と呼ばれていたが、今は立場もあって名前呼び。
 敬称・敬語なんざ使えないとのことで言葉は砕けたままだが、歳の功もあって場は読めるので俺的には何の問題もない。

 むしろこの人に敬称・敬語使われるとか怖すぎる。

 それに多少の無礼は咎められない程の実力の持ち主である。
 実力で黙らせられるって恰好いいよね。

「おら、ご依頼のモンだ」

 乱雑に押し付けられたを受け取る。

「有難う御座います。早速試しても構いませんか?」

 承諾を貰い、それを持って庭に出た。


 広大な庭。その中でも、優美を誇る庭園を外れ、樹々が立ち並ぶ庭の端へ。
 広く開けたその空間で早速受け取ったばかりのそれに眼を落す。

 黒地に金の装飾が僅かに成された鞘。

 柄に手を掛け、ゆっくりと刀身を引き抜く。

「凄いな」

 思わず、声が漏れた。

 刀身の美しさに無意識に口をついた感嘆。
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