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晴天の霹靂 1

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「カイザー様っ!!」

 崩れ落ちた俺に慌ただしくリフが駆け寄る。
 壁についていた方の手を突き出し、彼を止めようとするがそれよりも早くリフが俺のからだを抱き留める。

「誰か、医者をっ!!!」

「リフ、大丈夫だ」

 弱弱しく首を振るも、彼の声に慌ただしく集まる人々。
 途端に騒然とする回廊。

 俺の顔色も酷い自信があるが、眼の前にいるリフの顔色はそれ以上なんじゃないかと思う。
 普段は冷静な彼らしくなく酷く取り乱したその顔色は心配になるぐらい蒼い。

 誰よりも信頼している俺の従者。

 子供の頃から一番近くにいて、一番信頼している相手。

 柔らかなベージュブラウンの髪に穏やかな琥珀色の瞳。相手に安心感を与える優しい笑顔。有能で優秀で、謙虚で主人想い。

 柔らかな雰囲気に反して思い切りのいいところもあって、そして俺の絶対の守り。
 気心が知れて弱みを曝け出せる数少ない相手。

 流石に前世云々やこの怒号の内面は晒せねぇけど。
 下手すりゃ病院送り。

 関係性としては主従の関係ではあるけど、俺は親友だと思ってるし、何なら心の中ではぼうガキ大将の如く“心の友よ!”って呼んでるよ。

 そんなリフは今も正真正銘、俺の心配をしてくれている。

 だけど____

 だけどな!!ごめん!!
 俺の不調の原因、お前なんだわ!!!

 叫び出したい気持ちを抑えて、代わりに口を押さえる。

『一体何がっ?!まさかあの外道どもの残党が何かしかの薬でも仕込んで?いや、可笑しなものは口にしていない筈。カイザー様!!医者はまだかっ!?一体何をしている!!』

 頭の中にガンガンと鳴り響く言葉。



 それは先程の謁見の場でのこと_______

 誰もが陛下の言葉に耳を傾ける中、それは突然聴こえた。

『クズ共め。害虫の分際でカイザー様を煩わせるなど生きる価値もない。いっそ永久投獄などでなく全員駆逐くちくしてしまえばいいものを。だが、これで奴らは二度と日の目を見ることはない。我が主が煩わされることがなくなるのは喜ばしい』

 それは、耳からでなく。
 頭へ直接響くかのような声。

 空耳にしてははっきりと聴こえ、また、他の誰も反応を見せない。
 思わず眼を瞬きながら、俺の名と我が主という言葉に横目でリフを盗み見た。

 俺の僅かな反応にもすぐさま気づく出来る従者。

『お顔の色が悪い。まさか、お具合でも…?』

 再びはっきりと聴こえた声。
 だけどリフの唇は全く動いていない。
 この時点で、背に冷たい汗が流れた。

『カイザー殿、今日も美しい』

『役立たずな連中め、どうせなら公爵家の若造共の暗殺を成功させてくれれば良かったものを!』

 リフだけじゃない。
 聴こえる幾つもの声。

 自分の頭が可笑しくなったのかと思った。

 
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