ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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怪しげとか珍妙でないことを祈る 3

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 そんな俺は表情一つ、仕草の一つ一つが非常に目を惹くらしい。

 冷笑一つで大人たちを黙らせた俺は優美な動作を心がけながら玉座の前へと進み出た。

「陛下、発言をお許し頂けますでしょうか」

 礼をし、発言の許可を求める。挙動の一つをとっても騒ぎたてる“無礼者”たちとの格の違いを見せつけるように頭からつま先まで神経を張り巡らす。 

「どうやら、皆様方は私の出自に疑問を抱いておられるようだ。そして『無能』な私には爵位は相応しくないと仰る」

 そうだ、そうだ!と騒ぎ立てる外野。
 うっせぇーな、今てめーらの意見なんざ求めてねぇんだよ。

 あ、因みに喋ってるの俺ね。

 俺、人前では敬語かつ一人称“私”だから!!

「私が公爵家の血を引く実子であることは亡き父も公に名言しており、私自身も両親の間に生まれた子だと硬く信じております。されど、私が『無能』であることは事実。そこでひとつ提案がございます」

 全ての視線が俺へと集まる。

「我が弟、ガーネストは未だ6歳。弟が成人するまでの10年間私が公爵代理を務め、弟が成人したのちにはガーネストに爵位を継がせたく思います」

 広間に広がる騒めき。

 わざとらしいほどににっこりと、“”共を見据えた。

「まさか我が弟の出自まで疑う訳ではありますまい?」

 そもそも格下の分際で公爵家嫡男の俺の出自を疑うことすら不遜ふそんの極み。

 奴らがそれをしたのは俺が両親という後ろ盾をなくしたこと、『無能』な若造だと舐めきっているからだ。
 『異能』を持ち、義母とその実家という後ろ盾を持つ弟をこの場で貶める気概はあるまい。

 俺を貶めることで甘い汁を吸いたかったのだろうがアホ共め!

 万一俺が公爵家の血筋でなかったとしても、だ。
 他に正当な男児が居るんだからてめーらの出番がないことぐらいわかるだろうが!

「義母上、いえ、ルクセンブルク公爵夫人。如何いかがでしょう、貴女も異論はございませんか?」

 問いかければ、呆然としたまま彼女はぎこちなく頷いた。

 こうして、俺は晴れて爵位を手放すことが決まった。
 まぁ、好意的な周囲に考え直せと言われたり、色々あったがそれは割愛するとして。


 現状の俺の立ち位置。

 カイザー・フォン・ルクセンブルク。

 公爵家嫡男にして公爵代理。

 傲慢俺様攻略対象者と悪役令嬢我儘姫改め、マイスウィートエンジェルズの兄。


 ぶっちゃけ、最後の以外はどうでもいい。


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