ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

文字の大きさ
上 下
8 / 401

怪しげとか珍妙でないことを祈る 3

しおりを挟む

 そんな俺は表情一つ、仕草の一つ一つが非常に目を惹くらしい。

 冷笑一つで大人たちを黙らせた俺は優美な動作を心がけながら玉座の前へと進み出た。

「陛下、発言をお許し頂けますでしょうか」

 礼をし、発言の許可を求める。挙動の一つをとっても騒ぎたてる“無礼者”たちとの格の違いを見せつけるように頭からつま先まで神経を張り巡らす。 

「どうやら、皆様方は私の出自に疑問を抱いておられるようだ。そして『無能』な私には爵位は相応しくないと仰る」

 そうだ、そうだ!と騒ぎ立てる外野。
 うっせぇーな、今てめーらの意見なんざ求めてねぇんだよ。

 あ、因みに喋ってるの俺ね。

 俺、人前では敬語かつ一人称“私”だから!!

「私が公爵家の血を引く実子であることは亡き父も公に名言しており、私自身も両親の間に生まれた子だと硬く信じております。されど、私が『無能』であることは事実。そこでひとつ提案がございます」

 全ての視線が俺へと集まる。

「我が弟、ガーネストは未だ6歳。弟が成人するまでの10年間私が公爵代理を務め、弟が成人したのちにはガーネストに爵位を継がせたく思います」

 広間に広がる騒めき。

 わざとらしいほどににっこりと、“”共を見据えた。

「まさか我が弟の出自まで疑う訳ではありますまい?」

 そもそも格下の分際で公爵家嫡男の俺の出自を疑うことすら不遜ふそんの極み。

 奴らがそれをしたのは俺が両親という後ろ盾をなくしたこと、『無能』な若造だと舐めきっているからだ。
 『異能』を持ち、義母とその実家という後ろ盾を持つ弟をこの場で貶める気概はあるまい。

 俺を貶めることで甘い汁を吸いたかったのだろうがアホ共め!

 万一俺が公爵家の血筋でなかったとしても、だ。
 他に正当な男児が居るんだからてめーらの出番がないことぐらいわかるだろうが!

「義母上、いえ、ルクセンブルク公爵夫人。如何いかがでしょう、貴女も異論はございませんか?」

 問いかければ、呆然としたまま彼女はぎこちなく頷いた。

 こうして、俺は晴れて爵位を手放すことが決まった。
 まぁ、好意的な周囲に考え直せと言われたり、色々あったがそれは割愛するとして。


 現状の俺の立ち位置。

 カイザー・フォン・ルクセンブルク。

 公爵家嫡男にして公爵代理。

 傲慢俺様攻略対象者と悪役令嬢我儘姫改め、マイスウィートエンジェルズの兄。


 ぶっちゃけ、最後の以外はどうでもいい。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹ちゃんは激おこです

よもぎ
ファンタジー
頭からっぽにして読める、「可愛い男爵令嬢ちゃんに惚れ込んで婚約者を蔑ろにした兄が、妹に下剋上されて追い出されるお話」です。妹視点のトークでお話が進みます。ある意味全編ざまぁ仕様。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

転生ヒロインは乙女ゲームを始めなかった。

よもぎ
ファンタジー
転生ヒロインがマトモな感性してる世界と、シナリオの強制力がある世界を混ぜたらどうなるの?という疑問への自分なりのアンサーです。転生ヒロインに近い視点でお話が進みます。激しい山場はございません。

乙女ゲームはエンディングを迎えました。

章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。 これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。 だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。 一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。

処理中です...