ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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『亡国のレガリアと王国の秘宝』 2

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 そしてこの世界、否、この王国・ジュエラルに於いて忘れてはならない設定がもう一つ。

 『』の存在である。

 何故かジュエラルの王族・貴族、他まれにごく一部の平民が持ちうる能力で、読んで字の如く、まさしく異能。

 炎・風・水、その他様々な現象を起こすものから、魅了・治癒・嘘を見抜くなどその能力は多岐に渡る。

 伝説では初代の王が精霊と結んだ契約が発端だとか。正直眉唾だ。

 何にせよ、現にこの国には異能があり、そしてそれは血に受け継がれる。
 異能を持たぬ者と成された子は異能を持たない場合があり、逆に異能持ち同士の子はほぼ確実に異能を持つ。

 そんなこんなでこの国は上層部の血が非常に濃い。

 ごく一部の平民というのは本当にごく一部の身分差を厭わず恋に落ちた貴族と平民の子に異能が現れたパターン。
 逆にその手の子供たちは異能が強力であればその血を保つために貴族の養子・婚姻等と一発逆転も大いに狙える。

 因みに血に異能が受け継がれるといっても、あくまでも受け継がれるのは異能の保持であり、同じ能力そのものが受け継がれる訳ではない。

 世間では転生した転生者は乙女ゲームの概要をはっきりと覚えてないパターンもあるが、俺は違う。
 細部まではっきりくっきり、もはや攻略本不要レベルで覚えている。

 何故ならこのゲーム、公式の隠しルートの他に裏隠しルートがあるといわれていたからだ。

 公式隠しルートとか意味わからん。隠してんのか隠してねーのかって話だ。
 そして裏隠しルートって何だよ。
 聞いたことねーよ、そんなん。

 何を隠そう、俺がお姉様方にゲーム攻略を命令されたのもこの為だ。

 曰く、「そうまで秘されたキャラなんて絶対イケメンに決まってる!」

 スチルは100%全て埋まっているにもかかわらず、その裏に更に存在すると噂された裏隠しルートを見たいと仰せの奴ら……もといお姉様方に言われるがまま延々男どもを口説く日々。
 思い出しても涙が出そうだ。

 そして……
 裏隠しルートは_______見つからなかった。

 そもそも、存在するかさえ定かではない。
 その存在さえ定かでない裏隠しルートの為に『亡国のレガリアと王国の秘宝』を攻略し尽した俺がいる。


「何っで、よりにもよって…!!」

 やり場のない憤りを抱えたまま、小さな拳をベッドに打ち付ける。

 伝わるぽすんっ、という間の抜けた感触。
 無さに拍車がかかった。


『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界に転生した俺。

 栄えある公爵家の嫡男・カイザー・フォン・ルクセンブルク。

 射干玉の黒髪に満月のような黄金の瞳。
 幼いながらに完成された白皙の美貌は将来は絶世の美男子になること間違いなしとうたわれるイケメンだ。

 俺が第三者なら「爆ぜろ!」と呪詛を投げかけるだろう勝ち組。

 しかし_____

 そんな俺はモブである。

 攻略対象者はおろか、サポートキャラですらない。
 立ち絵すらない全くのモブ。

 先程ちらっと述べた公爵家の攻略対象者は俺の弟。
 因みにまだ生まれては居ない。

 そして、乙女ゲームお馴染の悪役令嬢は俺の妹。
 此方こちらも因みにまだ生まれては居ない。

 今から2年後、俺は人生の転機を迎える。
 6歳になると王族・貴族の子供は皆、神殿で異能の判定を受ける慣習がある。

 そして、その神殿で
 俺ことカイザー・フォン・ルクセンブルクは『』の判定を受けるのである。

 しかも間の悪いことにその情報が何故か世間に漏れ、
 公爵家の嫡男・カイザー・フォン・ルクセンブルクは『無能』と世間に広く知れ渡る事になるのだ。

 異能を持つ貴族間の子であればその子も異能を有する。

 つまりは________

 公爵家の嫡男は不義の子ではないかという不名誉な噂と共に。


「詰んだ」

 遠い眼をして呟いた4歳の夏。

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