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三十
しおりを挟むお馬鹿さん。
声には出さずに小さく呟く。
だけどきっと表情は緩んでいるだろう。
現皇帝を討つにあたって、本当はセドリックが毅然と指揮を執るのが今後の為にも一番良かったんだけど……。
甘い判断だと毒づきながら、それでも可愛い異母弟がファウスティーナを大切にしてくれたことが嬉しくないわけがない。
防御がガラ空きの胴体に向かって思いっきり足を叩き込む。
そんなんで騎士団長とか舐めてんじゃないわよ!あと女性は大切に扱いなさい。
そんな心の声と共に足を振りぬき、その手から剣をもぎ取った。
即座に数人の騎士が剣を向けてくるが…
どれも迷宮の魔物たちに比べれば雑魚ばかりだ。(今や迷宮のボスですら物足りないけど)
向かって来る敵たちを華麗に倒し、ファウスティーナは跳んだ。
玉座で目を見開く皇帝へと向かって。
皇帝は泡を喰ったような表情で玉座から滑り落ちるように逃れ、思うように足が動かないのか尻餅をついたまま無様に慌てふためく。
そんな男を歯牙にもかけず、玉座を、そして着地点を見据える。
あの日、八歳のあの時のような失敗はしない!
今度こそ見事に着地を決めて剣を仕舞ってふっとニヒルに微笑んでやるわ!
足元に小石なーし!!
床も豪華なカーペット敷いてあるからつるりと滑る心配なーし!!
よし、イケる!!!
高く跳躍したファウスティーナは空中回転をしてそのまま落下するように玉座へと落下する。
白刃が煌めき、スタンと軽やかな着地を決める。
周囲にわからない程度に小さく肘を引いてガッツポーズ。
剣を仕舞いニヒルに……、って仕舞えない!!
剣を鞘に納めようとしてそれがないことに気づいた。
しまったっ!!
騎士団長から奪った抜身の剣だから鞘はダンゴムシみたいに蹲ってる騎士団長の腰だよ!仕舞えないよっ!!
そしてそんなあたふたと脳内でテンパっている間に、
ゴトリ、音を立てて玉座が斜めに真っ二つに割れた。
崩れ落ちた玉座を誰もが呆然と眺める。
そんな中、それをやった当の本人はというと。
ああっ~、最後動揺してふっとニヒルに笑うタイミング逃した~!!!
頭の中で激しく地団太を踏みながら、またしても理想通りに行かなかったことを悔やむファウスティーナだった。
絶賛しょんぼりしつつ、そんな内面はおくびにも出さず冷静を取り繕って異母弟を振り返る。
「セドリック様、罪人たちの捕縛の指示を」
「あっ…はいっ!直ちにその者らを捕らえよ!!!」
そうして今度こそ、クズ共が一網打尽にされた。
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