異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

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傷口はとうに癒された

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会場のざわめきをよそに、クラレンスたちはフェリックに連れられて休憩用の小部屋へと移った。

グラスを投げつけらたこともあり、怪我がないか確認という名目だ。
ローランのおかげで怪我どころか濡れてさえいないけど。

勧められて壁際におかれた長椅子にシルクと座る。
フェリックと彼の護衛のエドワードは立ったまま。

「僕もいこー」とついてきたローランはシルクとは反対側の端に座ってサイドテーブルに置かれた菓子をつまんでいる。
お皿を差し出されてクラレンスも一個もらった。

「ローランさん、ありがとございました」

「私からもお礼を申し上げますわ。助けて頂きありがとうございます」

改めて礼を告げれば、気にするなというようにひらりとローランが手を振った。

「……大丈夫か?」

ずっと苦い顔をしていたフェリックがシルクの前で腰を落とす。
押し殺したその声には苦悩と、彼女に対してではない怒りが滲んでいた。

兄のように慕うフェリックのその姿にシルクは少しだけ困ったように眉を下げる。

いまこの場にいない両親にも彼にも、かつてフィリップから投げつけられた暴言は伝えてなかった。
勢いで口にしてしまったが、自分よりもずっと彼らはそれを気にしているのだろうと。

だけど、とシルクは笑った。

眉を下げた笑みではなく、晴れやかな可憐な笑顔で。

「大丈夫です。クラレンス様のおかげでもうとっくに吹っ切れてますもの」

あの男は絶対許しませんけど、と付け加えつつシルクは笑う。

怒りはあるが、もう傷ついても気に病んでもいない。

アザがあろうと自分を好いて心配してくれる人がいる。
外見しか見てない人の言葉なんて気にしなくていい。

そう教えてもらえたから。

「ずっと、心配してくださってありがとうございます。大好きですわ、フェリックお兄様」

花開くように笑うシルクの貴重なデレに、真っ赤になってうろたえるさらに貴重な王子の姿がそこにはあった。

赤い顔を口元に添えた手で隠そうとし、全然隠せていないフェリックがクラレンスに声をかけようとしたところでノックが響いた。

人払いしたはずの部屋に誰だろう?と顔を向ければ扉のまえから告げられた名に、「入れ」と許可をだせば衛兵が開いたドアから顔をのぞかせたのはイザークの姿だった。

「あれ?珍しい、イザークもサボりにきたの?」

「そんなわけないでしょう。貴方と一緒にしないでください。クラレンスくんたちの様子を見にきたんですよ。団長たちもあの場を離れるわけにもいかないし、ソワソワしっぱなしでしたしね」

どうやら心配してきてくれたらしい。

あと挙動不審な両親に様子を伝えて安心させるため……。

お手数おかけします、とエドワードと一緒にぺこり。

それからイザークとローランを正式にシルクに紹介する。

シルクとイザークの挨拶はすっごく貴族感があって、おおっ!となった。
相変わらず、いまいち自分たちもそうである認識のないクラレンスである。
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