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反撃開始!まずは父親から

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「ご家族想いなんですね」

にっこりと、満面の笑みを向ける。

その反応にモートンは目をしばたかせた。
予想外の反応にキョトンと驚く姿はますますたぬきっぽい。

さて、お手本のような綺麗な笑顔を浮かべたクラレンスだが……ぶっちゃけキレてます。

もともとフィリップの過去のシルクへの発言に怒っていたクラレンス。
とはいえ、貴族としての体面もあるしここで問題を起こす気もなかった。

だけどシルクにしつように絡むフィリップの行動と、自分を使って両親を貶めようとするモートンにそのガマンはひそやかにキレた。

それでも大人しくしていたのは、反撃のため。
ひとまず言いたいことを言わせてやろうというやつですね。

……ということで。

言質もとったことだし、反撃開始です!

コツリと靴音を響かせさらに一歩前へ出た。

「本当にお優しくてご家族を大事にしてらっしゃるんですね。素晴らしいです」

「ま、まぁ当然のこと、だが……」

困惑しながらもまんざらでもなさそうなモートンに笑みを深めて「でも」と続けた。

「お仕事で重要な役職に就かれることはないんですね」

放たれた言葉の意味が掴めなかったんだろう。
数秒の沈黙、その後のモートンの顔色はまるでリトマス試験紙のような鮮やかな変化だった。

「なっ!なんだと、このっ!!」

「ああ、申し訳ありません。貶したわけではなく、ご家族への愛情の深さに感嘆したうえでの発言だったのですが……」

褒めてると見せかけて貶す。

それは目の前の相手のお得意技だ。
同じことをクラレンスはやり返した。
もっとも、腹の内を隠せてないモートンのそれよりよっぽど上等だった。

「両親も好んで僕を捨て置いてなどいません。僕は空気のいい片田舎でないと命すら危ういほどに病弱だった、そして両親には重責のある仕事があった。両方を守るために僕を祖父へと預けたんです。
ですがあなたは仕事より家族を選ばれるんですよね?重要な役職についてしまえば常に家族を優先することは難しいですもんね」

「ち、違う。そういう意味では……」

「違う?なら一体?…………まさか先程のお言葉はただ我が家を侮辱する意味合いだった、なんてわけじゃないですよね?」

「そ、それは……」

無邪気さを装ってたずねるクラレンスにモートンの顔色は赤くなったり青くなったり忙しい。
周囲を気にするように汗をふきふきキョロキョロしはじめたモートンにさらに追撃を放つ。

「なによりもご家族を大切になさる、素晴らしいことだと思います」

笑顔を向けたあとでその表情を消した。

表情を引き締め、目の前の相手だけでなく注目してる周囲へ向けても宣言する。

「父も母も重要な役職を担い、国と民を守る騎士としての責任を負っています。その責任を無責任に放棄するような輩に騎士団の長が務まるわけがない。モートン卿のおっしゃる通りですよ」

「はっ?」

「先程、両親を褒めてくださったでしょう?我が子が病なら心配で仕方ないと、それでも仕事をおろそかにしなかった両親を立派だって。
僕もそう思います。両親はとても愛情深い人ですから、幼い僕を祖父の元に一人で預けるのは辛い決断だったでしょう。ですがそのお陰でこうして元気になれたし、騎士団で立派に役目を果たす両親のことを心から尊敬しています」

実際は嫌味でしかなかったモートンの薄っぺらい褒め言葉を利用してそう言ってやる。

いまさら「あれは本心じゃない」とも言えないモートンはもごもごと口を動かした。

もはや完璧にペースはクラレンスのもの。
キレたクラレンスはなかなかにしたたかだった。

あれです、大人しい相手こそ怒らせちゃ駄目ってよく言いますよね。
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