異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

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MK5って懐かしすぎる

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はやくどっか行ってくれないかな。

心の底からそう思う。

たぬき……じゃなかった、モートン家の当主は相変わらず遠回しなようでいて本心がまったく隠せていない自慢だの、嫌味だのを延々としゃべりつづけている。
そしてその息子であるフィリップはシルクにまとわりつくしで、ものすごくうっとうしい。

しかもすごい悪目立ちしてるし。

「クラレンス様は幼少のころから体が弱く、お爺様の元で育てられたのとか?」

「はぁ」

段々とあいづちも面倒になってきたクラレンス。
もはや半分、いやそれ以上聞き流している。

目の前の相手のどうでもいい話よりも、マジでキレちゃう5秒前!っぽいシルクや、こちらを気にする周囲、そして食事を中断せざるを得なくなったため近くのテーブルに置いたお皿の料理が気になって仕方ない。

「お爺様はどちらに?」

そう問うモートンの口元と目元が歪に歪んだ。
その表情に眉をしかめそうになりながらもしぶしぶ地名を答える。

「なんとっ?!」

はじめから知っていたくせに、喜色を隠して驚いたフリをするモートンの声が一段大きく会場に響いた。

「それほど遠くとは……。それではご両親はさぞ大変でしたでしょうな。顔を見に行くのも一苦労だ!んっ?!……ですが騎士団はご多忙ですな。まさかクラレンス様はずっとご家族とお会いになっておられなかったのではっ?」

「はっ?家族なのにか?弱すぎていらない子だったんじゃねぇの」

わざとらしい芝居がかった口調で周囲に声を響かせるモートンに、その意図を悟った。

「シルク」

フィリップの発言に顔を真っ赤にして怒鳴りつけようとしたシルクを制するように小さく名前を呼ぶ。

いつものほわほわした柔らかな声音でなく、どこか固く鋭いその声に口を閉じたシルクは戸惑うようにクラレンスを見た。
そんなシルクを背に庇うように一歩前へ。

モートンのさらに向こう、遠く離れた場所には強張った表情で顔色を失った両親の姿があった。
そして耐えかねたのかこちらへと向かってくる幾人かの知り合いの姿も。

だけどクラレンスは視界には入っているそれらにも、暴言を口にしたフィリップにも目を向けずモートンを見上げて薄く微笑んだ。

「ええ、僕は病弱でしたし両親らは忙しくてなかなか」

それで?とばかりに首を傾げる。

このとき、クラレンスをよく知る者達は彼の違和感に気付いていたが、初対面のモートンは気づかなかった。
だから喜々として芝居を続けた。

病弱な子どもに同情するフリをして、自分をいいひとに見せかけ、憎きブロンデルを貶めるための会話を。

「いやはや、驚いた。実の家族なのに何年も顔を見ることも出来ぬとは……」

「事情が事情ですから」

大げさに手を広げ首をふりふりするモートンにあくまで冷静にそう返す。

「そうはいってもお辛かったでしょう。病の身で幼い子どもがひとり捨て置かれるなど……失礼、言い方が悪かったですな」

「いえ」

「ですがご両親はご立派ですな。子より仕事を取ったのですから。もしもこの子が、フィリップが同じ境遇だったらと思うと…………わたしならとてもその選択は出来ますまい」

「……」

「心配で心配で、とても仕事にかまけてはいられないでしょう。誰よりも側についていてやりたいと思ってしまいますよ。なにせ大事な家族で掛け替えのない可愛い息子ですから」

立派だと持ち上げながら、わかりやすく非難を続けるモートンをクラレンスはじっと見上げる。

「仕事よりも家族の側にずっと?」

「もちろんです!」

腹を揺らしながら大きく頷く姿に笑みが浮かんだ。


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※MK5……「マジでキレる5秒前」
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