上 下
109 / 163

いつもご迷惑おかけします

しおりを挟む


「こっちはフルーツゼリーでーす」

おたま片手にクラレンスは声をあげた。
台を前にし、椅子に膝立ちでおたま片手にしたクラレンスの前には行列。

ちなみに同じような台と行列は他に2つほどある。

台のうえにはたくさんのガラス容器が並んでいた。
そこにせっせとボウルからゼリーをよそっては渡す。よそっては渡す。渡す、渡す。

ゼリーはそれなりに大量に作ったし、なによりみんなの前で一部のお姉さんたちだけに“ダイエットスイーツ”なんてインパクト大のスイーツを提供するなんて恐ろしくてできるわけがない。

とはいえ、騎士団の女性全員ともなればそれなりの人数がいるわけで。
なので自分で並んでもらうセルフ方式にしてみました。

クラレンスが担当している列は甘い砂糖水をたっぷり飲ませ、緩めのジェル状ゼリーに色んなフルーツを加えたフルーツゼリー。
彩りの華やかさもあって行列の長さもなかなかだ。

他にぶどうジュースを使ったぶどうゼリーと、コーヒーゼリーの台があります。
コーヒーゼリーの台にはセルフのシロップと生クリーム完備。

「おいし~い!!これでダイエットスイーツとか最高じゃないっ?!」

「ぷるぷるして冷たくて美味しいわ」

「これいくらでもイケそうなんだけど」

発端となったお姉さんらと姉のイリーネの会話にクラレンスは突っ込んだ。

「ほかのスイーツと比べたら断然カロリーは少ないけど、それでも食べ過ぎたら同じですからね?」

「「「……」」」

ある程度の満腹感も得られるし、低カロリーとはいえ食べ過ぎはいけない。

ただでさえ騎士である彼女らの胃袋は通常の令嬢の何割増しで食べれてしまうのだ。

子どもに現実を突きつけられ、「はぁい」と情けない返事を返して少しずつ味わうようにゼリーを食べるイリーネたち。

「だけど本当に美味しいね。あたしは甘ったるい菓子よりはこのぐらいの方が好きだよ」

そういうクラリッサが食べているのはコーヒーゼリー。生クリームあり、シロップなし。

配り終わったクラレンスも自分の分のゼリーを食べる。
フルーツたっぷりゼリーは一口ごとにフルーツの味も食感も色々で楽しい。

「お酒を使ったカクテルゼリーとかもおしゃれですよね」

思い付きでいった言葉だったが反応があった。

若い団員のお姉さんたちみたいに目の色変えてねだられたりはしなかったけど、お酒好きのクラリッサが興味を示したのをクラレンスは見て取った。

こんどクラリッサさんに作って持ってこよう。

母や姉がなにかと迷惑をかけてそうだし、とそう決めた。


少し確保しておいたコーヒーゼリーを持ってもう一つの騎士団へと向かった。

「あなたたちは何度おなじことを言ったらわかるんですか?」

父らの執務室では、瞳を細めて吹雪を背負ったイザークが仁王立ちしていた。

ひぃ!と声を上げた数人が肩を縮めて机に齧りついている。
それを見てなんとなくクラレンスは状況を察知した。

たぶんまた書類の期限忘れとか色々あったんだろう。同じような光景は何度か見ている。

お説教が終わったとろこで、はぁ、とお疲れなイザークの元へ行く。

「コーヒーゼリー持ってきたんで食べて下さい。お疲れさまです。……父さんらがいつも迷惑かけてます」

甘さ控えめなコーヒーゼリーはイザークにも気にいって貰えたようだ。
たまに持ってこよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT
ファンタジー
 神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。  神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。      現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。  スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。  しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。    これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

処理中です...