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もうちょっとゆっくり堪能したかった

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ちょこん、とクラレンスは元いたソファに腰かけている。

従業員のお姉さんがお茶とケーキを運んで来てくれた。
いつもこの部屋に通されるたびにお菓子やお茶を運んでくれるもはや顔なじみのお姉さんだ。

「まぁきれい!」

従業員のお姉さんがケーキを並べつつ、テーブルのうえの置物を目にして思わずといった風に表情を綻ばせた。

「今日はベイクドチーズケーキです。ソースはラズベリーとブルーベリーお好きな方をお選びください」

「わーい!じゃあブルーベリーで!」

白地のお皿にオシャレにソースをかけてくれたお姉さんはクラレンスへ「はい、どうぞ」と差し出したあと、他の三人を見て少し困った笑みを浮かべた。

現在、残りの三人はテーブルに身を乗り出しており、お姉さんの言葉など届いていないらしい。


部屋へ戻ったときのエリックたちの食いつきはすごかった。

お花を飾り付けられたガラスの置物を目にした彼らの勢いにセバスが瞬時に回収したほど。ワレモノなので壊されたら大変。
決して触れないから、という約束のもと再びテーブルに戻された置物を三人は色んな角度から真剣に眺めている。

そんな雇用主の様子など見慣れているのだろう。
二種類のソースの容器をケーキとともにセッティングしつつお姉さんはクラレンスへとにっこりと微笑む。

「造花を使った置物ですか?とても綺麗で素敵ですね」

「んっ。造花じゃなくて本物のお花ですよ」

「えっ?でも色が……」

ケーキを飲み込んだクラレンスの言葉にお姉さんは目をまたたかせる。

青色のバラは存在しない。

クラレンスはフォークを置くと、魔法の鞄マジックバックから小振りな一輪の青バラを差し出した。アレンジに使わなかったあまりだ。

「……布じゃない」

触れた手触りはしっとりとどこか滑らかで、たしかに造花の手触りではなかった。

「あげます。お水にはつけないでくださいね。日光にも弱いんで。脆いんでガラス容器とかにいれておくのがいいかな?湿気と日差しをさければ5年から10年ぐらいもちますよ」

「えっ?えっ?」

さらっと告げるクラレンスの言葉にお姉さんは大混乱。
ついでにその言葉が聞こえていたらしいエリックたちがガバッと首をあげた。

「造花じゃない?!どういうことですっ!!ならこの青バラはいったいっ??」

らんらんと光った目が獲物を狙う獣みたいで非常にこわい。
まさにその目で見られたお姉さんはもらった青バラをそっと胸に抱いた。

「クラレンス様っ?!」

「坊や、私たちもいろいろお話を聞きたいわ」

「ええ、ぜひ」

うわー、めんどうくさっ!

思わず内心で声をもらし、チラリとテーブルのうえのお皿をみた。
3分の1ほどが削り取られたチーズケーキ。

できれば食べ終わるまではこっちに戻ってきてほしくなかった……。

そんなクラレンスの内心を読み取ったのだろう。
目線を合わせてくれていたお姉さんの瞳は「がんばって」という労わりと同情に満ちていた。

「ケーキのおかわりも、お菓子の追加もありますから」

慈愛に満ちた笑みを浮かべて、お花のお礼をつげたお姉さんは去っていった。

……できれば僕も逃げたいです。

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