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マカロン>王子
しおりを挟む「だっ?!」
とつぜん目の前の王子様が変な声をあげて俯いたのでクラレンスはビクッとした。
となりのエリシュオンもビクッと肩が跳ねた。
驚きつつ、なにやら呻き声をあげているっぽいフェリックに「大丈夫ですか?」と声をかける。
もしかしたらテーブルに足でもぶつけた?
そう思ってわたわたとソファから立ち上がるも本人でなく横の王妃様に「大丈夫よ」と微笑まれた。
え?でも?とキョロキョロと二人の間に視線をさまよわせるも今度はご本人から「大丈夫だ」の声。
どう聞いてもやせ我慢の滲むその声音と、扇子で口元を隠した王妃様の妙に威圧感のある笑顔にようやくクラレンスはある可能性に気付いた。
……王妃様が王子様の足、踏んだ?
そろりとエドワードへと視線を向ける。
無言でそっと逸らされた。
侯爵夫人へと視線を向ける。
にっこりと姉妹感を感じさせる笑顔で微笑まれた。
これって……もしかしなくても僕の発言のせい?
「フェ~リッ~ク~お~兄~様ぁぁ~」
しかもシルクが激おこです。
可愛らしい顔は笑ってるのに全然笑ってなくてピクピクしてるし、声はどっから出してるのっ?ってぐらい低くておどろおどろしかった。
「まってシルク、ストップ!扇子投げつけようとしないで!相手は王子様だよ?!」
「だからなんですの?!問題ありませんわ!」
「いやいやいやいや!問題しかないからね?!ほらっ、エルも怯えてるからっ!!ねっ?だから一旦おちついて」
いまにも扇子をフェリックの顔面へとぶん投げそうなシルクを必死に止める。
マイペース男子も思わず焦るほどシルクの怒りがガチだった。
「悪かった」
下げられた頭に思わずぽかんと口を開いてしまう。
エリシュオンをダシになんとかシルクを落ち着かせることに成功し、ほっと息を吐いた途端の衝撃だった。
「無神経な物言いをした。非礼を謝罪する」
頭を下げているのは一国の王太子殿下だ。
しかもその相手が自分。
そりゃあ目も口もぽかんと空くよね、と驚き過ぎて一周まわってどこか冷静な頭でクラレンスはそんなことを思った。
「私からも謝罪するわ。ごめんなさいね。あとでキッチリ懲らしめておくから許してくれるかしら?」
「いえ、気にしてないので。むしろなにもしないでください」
首を振りつつ後半ちょっと強めに懇願した。
足踏んだ説が濃厚になったので。
「クラレンス様はもっと怒っていいのですわ」
「だって別に怒ることじゃないし」
「そんなことありません!」
プンプン怒ってるシルクに睨まれ、女性陣から冷めた視線を送られて肩を縮めるフェリックが可哀想になってきた。
「本当にまったく気にしてないもん。そもそも王子様の発言よりもマカロンが何味かのほうが気になってたし」
「「「「「マカロン……」」」」」
微妙な沈黙が降りた。
ひとりエリシュオンだけが「どれ?」と聞いてきたのできみどりのマカロンを取ってあげた。
もぐもぐと口にし、彼も同様に首を傾げる。
別にまずいわけじゃない。ふつうに美味しい。
美味しいけど何味かといわれるとわからないのだ。
その後、王妃様が確認してくれてマスカット味だったことが判明しました。
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