異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

お庭で収穫体験

馬車の音が聞こえ、玄関付近でそわそわしていたクラレンスはぱっと表情を綻ばせ玄関へと向かった。
たたたっと足音をを響かせドアの外へ。
ちょうど停止した侯爵家の家紋が入った馬車が目に入った。

開いた馬車の扉から従者に手を取られて降りてきたシルクの表情が、クラレンスを見つけた途端にぱっと華やぐ。
そしてそれは続いたエリシュオンも同様で。
小さな弟の手を取ったシルクが駆け足で走りよってきた。

……が、その足が不自然に止まる。

「シルク、エル。ひさしぶりー」

「お、お久しぶりでございます」

「シルク？」

「姉さま？」

ダブルで首を傾げられたシルクはほんのり頬を染めながらドレスをもじもじ握りしめると、淑女の礼を披露した。

他所のお家ウチで緊張してるのかな？と思いつつ、家の中へと招きいれる。

だが、すんなりと中へは入れなかった。
つづいて母にも綺麗な礼を披露して挨拶の言葉を投げ掛けたシルクが、母に涙目で抱きしめられていたからだ。

アザの治った美しい顔を目にした母は感極まったらしい。
「良かったわね」と繰り返す母につられたようにシルクや公爵夫人の涙腺も緩み、泣き出す女性陣を前にオロオロと顔を見あわすクラレンスとエリシュオン。

セバスのとりなしもあってようやく中へと入り、まずはウェルカムドリンクでおもてなし。

「大丈夫、シルク？」

ハンカチを手にしたシルクに問いかければ、おおげさなほどに細い肩が揺れた。

「は、はい。平気です」

全然平気に見えない真っ赤な顔と挙動不審な様子で答えるシルク。

なにやら母や侯爵夫人らの表情も妙だった。
こちらも薄っすらと頬を染め、ワクワクとかキラキラといった瞳でなにやら興奮している。

だが、マイペース男子はそんな様子などものともしない。

「お昼ご飯がもうすぐだから、約束してた収穫にいこうかと思うんだけど……もう少し休んでからがいい？」

「いえっ平気ですわ」

「うん。じゃあ行こう」

母らに断りを告げ、席を立つ。
いつも通りエリシュオンの手を握れば、空いた方の手をじっと見つめてくるシルクに気付き手を伸ばす。

「行こう？」

「……はい」

重ねられた手をとってお庭へと向かった。
美しい花々が咲き誇るエリアを抜け、人目につきにくい場所にそれはあった。

そう　ＨＡ　・　ＴＡ　・　ＫＥ　。

庭師のおじいは花といわず、植物ならなんでも大好きなグリーン・サムの持ち主だ。

グリーン・サムとは植物を上手に育てる園芸名人。
そんなおじいの手による家庭菜園には瑞々しいお野菜や果実がたくさん。

こどもでも持ちやすいサイズの小さな籠をシルクとエリシュオンへと渡す。

「今日はトマトとズッキーニを収穫します！あとはベリーとマスカットも。ハサミをつかうから怪我しないでね」

掘り出す系は時間もかかるし、シルクのドレスでは難しいので手軽に収穫できる系をチョイス。
マスカットは背が届かないので、おじいがとってくれる。

真っ赤に熟れたトマトに立派なズッキーニ、宝石のようにつやつや光るベリー類に、たわわな実りをつけるマスカット。他にもはじめて木になってるままの姿を見るフルーツなどに二人はわぁと完成をあげた。

そこからは「どれが一番おいしいかしら？」「あのおっきいのが取りたいです」などワイワイと採取を楽しんだ。

自宅の敷地で豊富な果樹園体験ができるとか、貴族の敷地ハンパない。