異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

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異彩を放つ少年 (イザーク)

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珍しくも浮足立つ気分で回廊を進む。

執務棟への道すがらは急き立てられるように速足になることが多い。
……主に書類の提出期限がギリギリな誰かさんたちのせいで。

王族や高位貴族の方々も居られるので見苦しく走るわけにはいかないので優雅さを保った競歩になりがちなのだが、今日はずいぶんと余裕があった。

手の中には書類の山と、数枚の書類のひな型。

最初はずいぶんと幼げな印象を受けました。
執事に手を引かれながらあちこちと興味深そうに首を巡らす姿は好奇心旺盛こうきしんおうせいで、筋肉ダルマたちにもみくちゃにされながらも怯えもせず笑う姿に人懐っこい子なのだと。

精悍な偉丈夫の騎士団長の子とは信じられないほどに可愛らしい容姿でした。

挨拶をすれば思いのほか礼儀正しく返され、私が副団長なのが意外じゃないかと問えば「実力を知らないので」と返された。

正直、驚きました。

自分の容姿がそれなりに整っている自覚はあります。
そしてその“整っている”のが男らしさや強そうな印象とは異なることも。

どちらかというと私は近衛騎士にいそうな人種でしょう。
実力で勝ち取った地位ですが、侮られることも少なくはありません。

まぁ勝手に自滅して下さる分にはそれはそれでいいのですが。

けど、あの子は実力を知らないから判断できないと言った。
容姿や地位に惑わされない在り様に驚き、評価がかなり上がりました。


「失礼します」

礼をし、通された室内では殿下らが仕事をしておられました。
提出すべき書類をお渡しし、判を頂き、側近が新たな書類の山を準備している間に数枚の書類を差し出します。

「騎士団で扱う書類の改正案なのですがお目を通して頂けますか?」

「改正案?」

書類のひな型を手に取った殿下の瞳が丸くなり、食い入るように次へと視線を移す様子に唇に小さな笑みが浮かぶ。

きっと私と同じ驚きを感じてらっしゃることでしょう。

「すぐ可決する」

あまりにも早い即決にふふっと思わず笑みが漏れてしまう。

「これを導入すれば書類作成の手間も差戻もずいぶんと減るぞ。騎士団だけでなく大幅な導入を検討しよう。でかした、イザーク」

殿下のお言葉にひな型を覗きこんだ側近も、驚きを浮かべて書類をその手から奪い取った。

「いますぐ書式を作りましょう!」

書類を手にどこかへ走りさってしまったが……やりかけの仕事はいいのだろうか?

「有り難いお言葉ですが……残念ながら発案者は私でありません」

「なにっ?だがこれは騎士団の書類だろう?」

お前でなければ誰が……という反応が、我が騎士団の脳筋ぶりをよくわかっていてくださって嬉しいやら悲しいやら。

「エドワード」

突然に名を呼ばれ、殿下の護衛として控えていた騎士が不思議そうに顔を向ける。
その顔は家族の中では一番彼に似ていた。
もっとも、だいぶ印象は違うが……。

「これはクラレンスくんの発案です」

「はぁ??!」

職務に忠実な彼が驚きの声をあげてしまうほど驚いているのだろう。

「騎士団長が招いたようでいま騎士団の見学に来ているんですよ。あなたも暫く会えていないんでしょう?休憩時間にでも顔を見てきてはいかがですか?」

「えっ、いやっ、それより……」

「書類の山を見た彼が提案してくれたんですよ。私も驚きました」

慌てて殿下の手元を覗きこむエドワード。
数枚は側近が持って行ってしまったが……。

「おまえの弟って……いくつだ?」

「13です」

「正直、もっと幼く見えますけどね。動作はあどけないですが、随分と利発な子でした。書類を一瞬目にしただけで暗算で計算ミスも見抜いてましたから。それだけじゃないんです。薬草を「美味しくないから」と加工までしていて……しかも本当に美味しくて手軽に摂取できるんです。契約を交わして騎士団でも使わせてもらうことになりました」

「薬草を美味しく……ってどういうことだ?」

意味わからん。と言いたげに顔を見合わす殿下とエドワードの気持ちはよくわかりますが、事実なのだから仕方ないです。

「色々と、おもしろい子ですね」

楽しくて、自然と漏れたのは笑みだった。

きっとこれから、もっと楽しくなりそうな予感がします。


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