異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

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バジルペースト(偽)で簡易薬草スープ

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書類の書式についてちょこちょこっとと意見を出し合い、引き続き騎士団見学をしているときだった。
急に外が騒がしくなった。

「なにごとだ?」

慌ただしい騎士の一人に騎士団長である父が問いかければ、敬礼して事態を簡潔に伝える騎士。

「はっ!魔物退治に出向いていた一団で毒を受けた者が数名おり、転移術にて緊急帰還致しました。死者・重傷者はおりません。緊急帰還させた者以外は引き続き現地で任務を行っております」

そうこうしている間にも、同僚に肩を支えられた数名の騎士が連れられてきた。
毒をくらったとはいえどうやら命に関わるような事態でもなく、肩を支えられながらも自力で歩けているようだ。

【解毒】の魔法が使えるクラレンスは手伝いを申し出たものの……毒はどうやら魔法が効きにくいものらしかった。

一見万能な魔法だが、特定の魔物の攻撃にはなぜか【治療】や【解毒】【解呪】などの魔法が効かないものがあるのだ。
魔法との相性の問題かもしれない。

今回の毒は魔法は効かないものの一、二週間で自然に抜けるし、なにより薬草での解毒が可能なもののようだ。


んんっ??とクラレンスは二度見した。

騎士たちの前に運ばれた大きめの皿。
そのうえにこんもりと盛られた、薬草の山。

そう まさに山。

皿を前にした騎士の表情が「うげっ」と言いたげに歪んだ。
実際に声に出した人も。

「観念してとっとと食え」

「いやー……。毒よりこっちのが嫌なんすけど」

「いーやーだー!!」

「黙れ、とっとと食え」

そんな会話が繰り広げられ、イヤイヤな表情で皿へと手を伸ばす人や嫌がるあまりに羽交い絞めにされて口へと押し込まれそうになる人もいた。

それもそのはず、あの薬草は激マズである。

そのまま食べれば劇物と評してもいいぐらいめちゃくちゃ苦くて渋い。
それが生のまま、サラダのように山盛り盛られているのだった。

「えっ、待って。まさかあのまま食べるの……?」

恐る恐る傍らにいる父やイザークへ問えば「解毒のために仕方がない」と答えられ唖然あぜんとする。
一瞬だけポカンとしたあと、急いで彼らに駆け寄った。

「待って、待ってっ。待ってください!!」

食べたことのあるあの味を思い出して若干涙目で制止する。

「少年っ!オレの気持ちをわかってくれるか!これより毒の方がマシだよな!」

羽交はがい絞めにされてたお兄さんが救世主!とばかりに反応した。

「いーやーだー!!こんなん人の食いもんじゃねぇ!!これを食うぐらいなら1週間毒で苦しむ方がいい~~。なっ、少年」

「いえ、解毒はしないとまずいですよね」

めっちゃ裏切られたような目で見られた。
そんな顔されても……。

「あのっ、カップとお湯をもらえませんか?」

カップを受け取り、ちょうどポットにお湯があったのでポットごと貸してもらう。

魔法の鞄マジックバックから小さめの瓶を一つ取り出した。

「クラレンス?」

訝しがる父や周囲をよそに蓋をあけてスプーンで2さじほどすくったそれをカップに入れてお湯で溶かす。
ついでに別の小瓶に入った顆粒状のブイヨンを1さじ。

盛大に嫌がっていたお兄さんにカップを渡す。

「同じ種類の薬草ですがそのまま食べるよりずっと美味しいはずです。飲んでみてください」

不審な緑色っぽい液体に怯むお兄さんに説明する。

瓶の中身は先日作ったバジルペースト(偽)だった。
バジルペースト(偽)と顆粒ブイヨンをお湯に溶かしただけの簡易スープだ。

なにかはよくわからんが、あの薬草の山を食べるよりはずっとマシとカップに口をつけようとしたお兄さんを「あっ!」と止めた。

「誰か【鑑定】を使える方はいますか?」

「俺が使えるが」

羽交い絞めをしてた方のお兄さんが声をあげたのでお願いする。

「原料に毒や呪いのかかった元毒草とか使ってるんで鑑定をしてもらえます?」

「え”?!」

「大丈夫です。【解毒】【解呪】済なので」

毒&呪い入りと聞いてビビった目でカップとクラレンスを交互に見るお兄さんにゆるっと告げた。
その間、もう一人のお兄さんが【鑑定】してくれて無事問題なし判定。

まぁ、【解毒】【解呪】済だし。

元毒草や呪いの草が原料だということであとから文句を言われても嫌なので念のためだ。

「大丈夫だって判明したんで飲んでください」

「……いや、でも…………」

「あの薬草の山の方がいいですか?」

きょとりと首を傾げられ、二つを見比べる。

激ニガ激マズの薬草の山と危険はなしと判定された謎の緑のスープ。
どちらも嫌だが、スープの方がまだ一気に流し込めそうなだけ救いがある。

硬く目を閉じて、一口。

…………。
あれっ?わりと美味い……。

こくこくと全部飲み干す。
若干の苦みはあるがコクや旨みもあって普通に飲めた。

「このお兄さんを【鑑定】してもらえますか?」

「あ、ああ……」


【鑑定】

異常なし。


「毒の症状が消えてる……」

「マジでっ?!」

「他の方達もどうぞ~」

呆然とする騎士や大騒ぎする騎士をよそにマイペースに追加の簡易スープを作りはじめるクラレンスだった。



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