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異世界といえばマヨネーズ
しおりを挟むまず、作るべきはマヨネーズ。
しっかりと手を洗い、卵をボールに割り入れる。
ちなみにクラレンスの作るマヨネーズは黄卵のみを使用するので、卵の殻に黄卵のみを残してボールに卵白を落としもう一つのボールに黄卵を。
卵白は料理人さんたちに有効活用してもらう所存である。
すいすい作業を行うクラレンスを料理人たちが驚いて見ていた。
由緒ある伯爵家の騎士一家・クレイン家は家族のみならず、仕える使用人たちもわりと大柄で勇ましい。
そしてそんな彼ら・彼女らから見るクラレンスは小動物的な幼子そのもの。
ましてや服が汚れるからと料理長が貸し出してくれたエプロンは小柄な人選をしたというのにクラレンスにはぶっかぶか。料理経験ありと自己申告はもらったが、ぶかぶかエプロンをつけてちまちま動く少年を若干ハラハラしつつ見守っていたのだが……予想外に手際がいい。
卵黄に塩を入れてしっかりと混ぜ合わせ、ボールの縁にそわせるようにオリーブオイルを加えてさらに混ぜる。
混ぜてはオリーブオイルを入れて混ぜる。
入れて混ぜる。混ぜる。その繰り返し。
泡だて器でひたすらに混ぜるという単純な、だがひ弱なクラレンスにとっては過酷な作業をしつつ時折疲れた手をプラプラ。
やっぱりキツいなぁー。
なんでもすぐに手に入った前世の世界すごい、と当時は当たり前だった便利さを今さらに実感する。
なお、当時の自分のことなど記憶があいまいなくせに、食べ物や趣味、豆知識的な知識など興味のあることについてはわりとはっきり覚えてるクラレンスだった。
「お手伝いしましょうか?」
「……いいんですか?」
救世主が現れた。
「これをひたすら混ぜればいいのですか?」
「はい。乳化したら酢を加えてさらに混ぜます」
「わかりました」
シャカシャカシャカシャカ、料理長の素晴らしい手さばきで混ざっていくマヨネーズ(仮)。酢を加えたことで黄色かったボールの中身がみるみる白く変色する様に料理人たちが驚く。
白っぽくもったりしたマヨネーズの完成ー!
「わぁーい!!ありがとうございます」
ボールを両手で持ち上げて料理長へとお礼を告げた。
塩コショウを少し加えて、さて、味見味見ーとサンドイッチ用のキュウリをちょこっと刻んでマヨネーズをつける。
おいしい。
ついもう一個、口にした。
にこにこと謎の物体を美味しそうに食べるクラレンスに料理長がためらいがちに声をかけた。
「どのような味なのか私も味見させていただけませんか?」
「いいですよー。どうぞ」
キュウリとマヨネーズを差し出せばそれを口にした料理長が「コレはッ!」と驚きの声をあげた。その様子に料理人たちがわらわらと寄ってきてクラレンスはボールを胸に抱えて眉を下げた。
瞳が獲物を狙う獣のそれだ。
ちょっと怖い。
料理人として気になるのだろうし、分けてあげたいのはやまやまなのだが……。
「クラレンス様。そちらの調味料を私どももマネしてみても構いませんか?」
料理長の申し出にレシピを教えた。
クラレンスとしても折角作った昼食用のそれが取られなければ構わないし、今後マヨネーズを作ってくれるなら大歓迎。
これぞWin-Win。
「それはどのように使うのです?」
「野菜に使うのが一般的ですかね?今日だとサンドイッチの葉物にかけたり、あとは茹でたジャガイモと和えてポテトサラダにしたりとか。あ、コンビーフやツナと和えて具材にするのも美味しいです」
「なるほど、なるほど」
「味も美味しいですし、マヨネーズを使うとサンドイッチのパサパサ感がなくなって食べやすいですよー」
「そういった効果もあるんですね」
「他の使い方だとお肉とかの下味に使ったりも出来ます」
メモを手にした料理人たちにあれこれと質問されながら作業を続ける。
なお、料理人たちが色々と手伝ってくれたため昼食には数種の豪華なサンドイッチが完成した。
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