上 下
1 / 163

基本的にマイペース

しおりを挟む


ここはどこ?わたしはだれ?

浮かんだのはそんなベタすぎる言葉。
だけど実際にでた声は「あうぅぇ~?」と不明瞭かつ間抜けな声。



あれから、13年。

気付いたら赤ちゃんになっている、しかもあきらかに地球じゃない。
だって魔法とかあるし。見たことない生き物いるし。という唐突な異世界転生を果たした少年・クラレンスはすくすくと成長した。

そしてそんなクラレンスはいま、馬車にゴトゴト揺られていた。

「あー、空が青いなぁ。こんな日は日向ぼっこしたくなっちゃう」

カーテンをこっそりあけ、外を眺めながら呟く声はどこかゆるい。

薄い金の髪に柔和な表情。
肌の色は白く、華奢なからだと空色の大きな瞳がその容姿を幼げに見せていた。

異世界転生したクラレンスだが、前世のことはあまり覚えていなかった。
もっていた知識を忘れてしまったわけではなく、知識や常識は覚えているのだが前世の自分のこととなるとさっぱりだ。

転生当初はそれこそなまえだの少しは覚えていたような気もするのだが……クラレンスは基本マイペースだった。
これは多分前世からそうだと思う。
そしてマイペースにすごしているうちに、興味のないことはすっぱりきっぱり忘れていった。

「いつまでも過去に囚われてたってしかたないよねー。生き返れるわけじゃないし」

前世のなまえを思い出せないと気づいたときのクラレンスの台詞である。

そんなザ・マイペースなクラレンスだがお約束というかなんというか、一応貴族の一員ではあった。
流行りの異世界貴族転生である。

だがしかし!

世の中そう甘くはなかった。

生まれはそれなりに由緒ある伯爵家。
…………の四男。
男・男・女・男の末っ子だ。

そして剣と魔法のファンタジー世界において、魔力の量は中の中。
剣に至っては握ったことすらない。
あたまは悪くないがどこまでものんびりマイペースで、付け加えるなら“精霊のいとし子”だの特別感満載の設定もなければ、ここがどこぞのゲームや小説の世界で未来を知っているなどということもない。

つまり、ただ異世界転生しただけでチートは皆無。

それどころかどっちかというとマイナス要素満載だった。

なにせクラレンスは生まれつき病弱で空気のいい辺境の祖父のもとに預けられて育った。
王都に暮らす家族のもとにいたのは3歳になるかならないかまでで、クラレンスは家族の顔さえ覚えていない。

空気のいい片田舎で貴族というより普通のこどものようにのびのび自由に育ったためか、喘息などの症状も成長とともに克服し、王都に住まう家族のもとへ向かっているのが現在だったりする。

顔も覚えていないぐらいだから当然性格も覚えていない。
赤の他人を「あれがおまえの家族だ」って言われたら「そうなんだ」って納得するレベルである。

そして一番のネックは……クラレンスの家が代々続く騎士の家系だということ。

父は騎士団長。
母は女性騎士の副団長。
兄・姉も騎士。

顔を見せにくることすらなかったのはクラレンスが厭われているからではなく、ひとえに騎士の仕事が忙しのと単純に距離の問題。とはいえ、こっちが忘れてるくらいだ。あっちも忘れてたって仕方はない。

騎士の家に生まれながら剣も握ったことのない病弱な自分。

すくすく成長したとはいえ、周囲より発育の遅い容姿はぶっちゃけ10歳ぐらいにしか見えない。
ただひとつ言い訳するならば、前世なら多分年齢通りで通るのである。
だがこの世界は発育がいい。良すぎる。
こちらの世界の13歳は15・6歳。人によってはそれ以上にも見えるのだ。

代々騎士の家系に生まれながらこの有り様。

「僕の存在、覚えてるかなぁ?忘れてるならともかく、「おまえなんかいらん!家の恥だ!!」とか言われたらどうしよう?」

どう考えても笑い事ではない台詞をへらっと笑いながら口にするマイペース男子のメンタルだけはそれなりに強かった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT
ファンタジー
 神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。  神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。      現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。  スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。  しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。    これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

処理中です...