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基本的にマイペース
しおりを挟むここはどこ?わたしはだれ?
浮かんだのはそんなベタすぎる言葉。
だけど実際にでた声は「あうぅぇ~?」と不明瞭かつ間抜けな声。
あれから、13年。
気付いたら赤ちゃんになっている、しかもあきらかに地球じゃない。
だって魔法とかあるし。見たことない生き物いるし。という唐突な異世界転生を果たした少年・クラレンスはすくすくと成長した。
そしてそんなクラレンスはいま、馬車にゴトゴト揺られていた。
「あー、空が青いなぁ。こんな日は日向ぼっこしたくなっちゃう」
カーテンをこっそりあけ、外を眺めながら呟く声はどこかゆるい。
薄い金の髪に柔和な表情。
肌の色は白く、華奢なからだと空色の大きな瞳がその容姿を幼げに見せていた。
異世界転生したクラレンスだが、前世のことはあまり覚えていなかった。
もっていた知識を忘れてしまったわけではなく、知識や常識は覚えているのだが前世の自分のこととなるとさっぱりだ。
転生当初はそれこそなまえだの少しは覚えていたような気もするのだが……クラレンスは基本マイペースだった。
これは多分前世からそうだと思う。
そしてマイペースにすごしているうちに、興味のないことはすっぱりきっぱり忘れていった。
「いつまでも過去に囚われてたってしかたないよねー。生き返れるわけじゃないし」
前世のなまえを思い出せないと気づいたときのクラレンスの台詞である。
そんなザ・マイペースなクラレンスだがお約束というかなんというか、一応貴族の一員ではあった。
流行りの異世界貴族転生である。
だがしかし!
世の中そう甘くはなかった。
生まれはそれなりに由緒ある伯爵家。
…………の四男。
男・男・女・男の末っ子だ。
そして剣と魔法のファンタジー世界において、魔力の量は中の中。
剣に至っては握ったことすらない。
あたまは悪くないがどこまでものんびりマイペースで、付け加えるなら“精霊のいとし子”だの特別感満載の設定もなければ、ここがどこぞのゲームや小説の世界で未来を知っているなどということもない。
つまり、ただ異世界転生しただけでチートは皆無。
それどころかどっちかというとマイナス要素満載だった。
なにせクラレンスは生まれつき病弱で空気のいい辺境の祖父のもとに預けられて育った。
王都に暮らす家族のもとにいたのは3歳になるかならないかまでで、クラレンスは家族の顔さえ覚えていない。
空気のいい片田舎で貴族というより普通のこどものようにのびのび自由に育ったためか、喘息などの症状も成長とともに克服し、王都に住まう家族のもとへ向かっているのが現在だったりする。
顔も覚えていないぐらいだから当然性格も覚えていない。
赤の他人を「あれがおまえの家族だ」って言われたら「そうなんだ」って納得するレベルである。
そして一番のネックは……クラレンスの家が代々続く騎士の家系だということ。
父は騎士団長。
母は女性騎士の副団長。
兄・姉も騎士。
顔を見せにくることすらなかったのはクラレンスが厭われているからではなく、ひとえに騎士の仕事が忙しのと単純に距離の問題。とはいえ、こっちが忘れてるくらいだ。あっちも忘れてたって仕方はない。
騎士の家に生まれながら剣も握ったことのない病弱な自分。
すくすく成長したとはいえ、周囲より発育の遅い容姿はぶっちゃけ10歳ぐらいにしか見えない。
ただひとつ言い訳するならば、前世なら多分年齢通りで通るのである。
だがこの世界は発育がいい。良すぎる。
こちらの世界の13歳は15・6歳。人によってはそれ以上にも見えるのだ。
代々騎士の家系に生まれながらこの有り様。
「僕の存在、覚えてるかなぁ?忘れてるならともかく、「おまえなんかいらん!家の恥だ!!」とか言われたらどうしよう?」
どう考えても笑い事ではない台詞をへらっと笑いながら口にするマイペース男子のメンタルだけはそれなりに強かった。
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