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【その後】
転生司祭は帰省する 10
しおりを挟む滞在中の数日間、イレイスは寝る時以外基本二人のどちらかから離れなかった。
「知識のご教授ありがとうございます。教えて頂いたことを元に必ずや転移術を習得してみせますね」
にっこりと笑うイレイスの笑顔は控えめにいっても輝いていた。
転移術、かーなーりー難しいはずなんだけど……なんでかな?
出来るようになる気しかしない。
たぶん習得するんだろうな、うん。
なんだろうこの謎の信頼。
「信仰の力は偉大です」
胸の前で腕を組んで呟くヨハンくん。
ねぇ、ヨハンくん?
その発言は神への信仰のことかな?
それとも僕への信仰の賜物ってことかな?
後者の予感しかしない……。
そして転移術の師匠こと、ジャンさんとシルフィーナがげっそりしてるんだけど。
ぶっちゃけ、魔王討伐の旅でもこんな疲れ切った姿みたことないよ。
いや、あった。
魔物や魔族相手にはなかったけど、ブチ切れモードのアーサーやユリア宥めるときはげっそりしてたわ。
あと、僕の失踪のとき。
なんか、ごめん。
最終的に浮かんだ言葉はそれだった。
帰省最終日。
いつか見たような光景が目の前に繰り広げられていた。
見送りには村中の人たちが集まってくれた。
まるで魔王討伐への旅立ちの日のように。
まぁ、あの時と違って危険な旅路にでるわけでないからあそこまでの悲壮感はないけど、仕事の手を止めてまで見送りにきてくれる村人たちの心遣いは正直嬉しい。
「色々とお世話になりました」
歓迎してくれた村人たちに挨拶をし、そっとしゃがんだ。
「たくさん遊んで、お勉強もしていい子にしててくださいね?」
僕の足に抱きついて泣いている小さい子らの頭を撫でながら言い聞かせれば、えぐえぐ泣きながらも頷く子どもたち。
「は、いぃ」
「いーこにする。そしたらまたしさいさま来てくれる?」
「もちろん、また来ます」
そして、だだを捏ねるのは小さい子だけじゃなかった。
「司祭様っ、本当にもうお帰りになっちゃうんですか?せめてもう少しだけっ……あと一年、いやせめて十年…………!」
長っいな!!
十年ってせめてもう少しでもなんでもないよね?!
思わず引き攣りながらも丁重に「無理です」ってお断りした。泣かれた。
アーサーやユリアも友人や知り合いたちと別れを惜しんでいるし、お肉を山ほど調達してくれたウルフや、孤児院の子どもたちと一番年も近いヨハンくんもなんだかんだで大人気だ。
あっちこっちで「元気でね」とか「また来てね」って声が飛び交っている。
別れの挨拶に色々と時間を費やしたが、魔法陣が光れば帰還は行きと同じく瞬きの間だった。
一瞬で変わった景色と、消え去った賑やかさにほんの少し寂しさが胸をよぎる。
「久しぶりにみんなに会えてうれしかったっ!」
「相変わらずだったな」
そんな感傷を拭い去るようなユリアとアーサーの声。
「また会いにいきましょうね、ミシェル様」
「イレイスだけでなく他の奴らも転移術覚えそうだよな」
「……転移術ってそこそこ難しいんだけどね」
「ですがきっと成し遂げられるんでしょう」
「できそうだったわね。やたら優秀だったもの」
「あと熱意がちげぇしな。熱意が」
みんなの会話に感傷がほんとどっかいったわ。霧散ー。
そしてやっぱりジャンさんたちも僕と同じ感想を抱いていたようだ。
感想っていうかもはや確信??
こっちからもちょくちょく会いに行けるし、それにあっちから会いに来てくれることも増えそうだ。
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