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【その後】
転生司祭は帰省する 9
しおりを挟む「ねぇみんな。しばらく私を家事とかの当番から外してくれない?」
賑やかな場にポツリと呟きが落ちた。
真剣な顔をしてそんなことを言いだしたのはジャンさんに魔術の質問をしていたイレイスだ。
緑髪の落ち着いた美少女で、魔術に関する知識と実力は孤児院一の天才児。(ユリアは除外)
孤児院では料理や掃除、日常のあらゆる作業を当番制で行っている。
基本的にサボらずいい子でこなしてくれるし、なんなら当番じゃなくても「お手伝いします!」って率先して動いてくれる働き者が多い。
イレイスも決して怠け者の少女じゃないし、みんなも「何言ってんだよイレイス」とこぼしながらも非難っていうか「どうしたんだ?」ってニュアンスだ。
静かに瞳を閉じたイレイスはギュっと胸の前で握りこぶしをつくりつつ、決意を込めて瞳を開いた。
「私、転移術を覚える」
静かな、力強い宣言。
反応が遅れる周囲にたたみかけるようにイレイスは言葉を続けた。
「いい?私が転移術を習得すれば王都に行けるのよ?魔力消費だって激しいし、もちろんしょっちゅうはムリよ。でもエリザやザックたちだって王都に行ってみたいと思わないの?
私は行きたいわ!いいえ、絶対に一度は司祭様のお店に行ってみせるわ!!」
やたら熱く語るイレイス。
あれ……?
イレイスってこんな熱血な子だったっけ?
もっとこう、物静かで大人しい子だった気が……。
王都に憧れてるのかと思いきや、目的は僕の店かーい!!
いや、うれしいけどさ。
まだ開店してませんけどね。
ちなみにエリザやザックの名をあげたのはイレイスが親しいからと、二人は村に残留組だからだろう。
村を出る子はともかく、そうじゃない子は王都へ行く機会なんてそうそうない。
イレイスの演説を聞いた子どもたちは目をかっぴらいた。
台詞をつけるなら背後に浮かんでいるのは「その手があったか!」だろう。
「イレイス……!!貴女ならできるわ。…………ああっ、司祭様のお店……!!」
ガシッとイレイスの両手を握り瞳を潤ませるエリザ。
「さすがイレイス!そうだよな!敬愛する司祭様のお店だ、行かずに一生を終えるとか有り得ねぇよな」
力こぶを作りながら「掃除でも力仕事でも任せろ!お前は転移術に全てをかけろ」と激を飛ばすのは子どもたちをまとめる兄貴分のザック。他の子らも次々と続く。
「わたしもお手伝いがんばるー!」
「ぼくもー!!」
「イレイスおねーちゃん、がんばって!!」
健気に手をあげてお仕事がんばる!宣言する子どもたちは一見、助け合いの精神に溢れた美しい光景なんだけど…………目的おかしくない?
そして僕の店のハードルむちゃくちゃあげられてない?
特別なお店でもなんでもない飲食店だからね?
これでこの子らが本当に来て「なんだ……」ってガッカリされたら泣くよ?僕。
みんなに励ましと当番無期限免除を言い渡されたイレイスはキッと凛々しく顔をあげた。
「そういうことなんで、ご指導宜しくお願いします!師匠たちっ!!」
「し、師匠?!」
「わ……わたくしも、ですの?」
突然師匠呼ばわりされて怯むジャンさんと自分を指さして慌てるシルフィーナ。
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