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【その後】
転生司祭は看病する 3
しおりを挟む騒めく人たちの群れへと駆け寄る。
「ミシェル?一体なん…………ちょっ!!」
苦情を言いかけたウルフの前でぐらつくアーサーの体を慌てて支えた。
「あれ??」
不思議そうに声を上げるアーサーに小さく溜息。
「大丈夫かい?アーサー、具合が悪いだろう?」
「司祭、さま……?」
カクン、と力を失くす体躯を支えきれずに一緒になってぐらつくが、なんとか膝をついて倒れ込むことは抑えた。
そっと前髪を掻き分け額に手をやれば…………あきらかな高熱。
「部屋へ……その前に水分をとった方がいいか。誰か、水を頂けますか?」
声をかければすぐさま騎士が水を持ってきてくれた。
「どうぞ!水です!!」
体育会系のノリで水を差し出してくれたのは、例のいつだったか「彼女と約束あったのに!」と嘆いていた騎士だ。
あの後、わざわざ謝罪に出向いてきた意外と生真面目な彼は当然の如くアーサーやユリアの怒りを買った。
折角どの騎士かは黙秘してたのに……。
荒ぶる二人から庇ったら、えらく感激されて土下座にて再びの謝罪をされたのち、このノリである。
まるで舎弟のように忠実だ。解せぬ……。
ぐったりする体を支えながら水を飲ませる。
「具合悪かったのか……?さっきまで全然平気そうだったのに。ってかよく気付いたな、お前」
「なんとなく、ね。アーサーはいつも倒れる直前まで自分の不調に気づかないんですよ。なまじ無理がきいてしまうから余計なんでしょうけど」
普通に戦闘してて、敵を殲滅して安全な場所へ移動した途端ぶっ倒れるなんてこともある。
要は気が抜けると疲労がグッとくるんだろう。
今回は僕が気付いて障壁を張ったけど、そうでなければ躱して一撃をお見舞いするところぐらいまではやってからぶっ倒れてたんじゃないかな。
最低限の自衛は本能でしてるみたいだし。
だからまぁ、僕の助けは多分要らなかったんだけどね。
具合悪いのにわざわざ無理させる気もないし。
「ウルフ、彼を部屋まで運んで頂けますか?」
「ああ」
僕じゃちょっと無理。
今も何気に潰れそうです……。重っ。
ぎゅっと水を絞り、冷たい布を額へと置く。
赤く染まり苦し気だった表情が一瞬だけへにゃりと崩れた。
幼げなその表情に笑みを浮かべ、頬へ張り付く髪をよけてあげれば冷たい指が気持ち良かったのか懐くようにすり寄ってくる。
「早く良くなってくださいね」
そっと頬を撫でて手を引いた。
魔法で治療することは可能だが、何でもかんでも魔法で癒すのは良いことばかりではない。自然の治癒力や体力も落ちるしね。
ましてや怪我なんかと違って、体が疲労を訴える風邪なんかは特に。
高い熱を落ち着かせ、咳を抑える薬は飲ませたが何といっても肝心なのは休息だ。
初めての旅や魔王討伐にその後のゴタゴタ、責任感も強く頑張り屋なアーサーは気づかぬ内に疲れも溜まっていたのだろう。
なお、僕が姿を消したのが一番の心労だったのでは?という点には目を背けたい。
「あっ、起きた!アーサー平気?お腹すいてない?」
「お腹……すいた」
瞼を開き、キョロキョロと視線を彷徨わせるアーサーにユリアはフフッと笑った。
彷徨う視線が求める先を知っているから。
身を起こそうとするアーサーを手で制し、ベッドへと体を戻しながら告げる。
「今ね、ミシェル様がプリン作ってくれてるよ。おいしーよね。風邪ひいた時の楽しみだったなぁ」
「……プリン。司祭さま、の?」
「うんっ!」
まだ意識が覚束ないのか、言葉遣いが危ういし、司祭様呼びに戻ってるアーサーの様子はどこか幼い。
起きようとした弾みで額から落ちた布を拾い、首筋を伝う汗を拭ってから「ちょっと待っててね」と席を立った。
ひょこりと備え付けのキッチンを覗き、声を掛ける。
「ミシェル様ー!アーサー、目を覚ましました。お腹すいてるそうです!」
「本当ですか。ああ、アーサー。具合はどうです?いま食べるものを用意しますね」
キッチンから出てミシェルが声を掛ければ分かりやすくアーサーの肩が下がった。
まるで迷子の子供が親を見つけたように、表情に滲む安堵。
「司祭さま、プリン」
裾を掴んで強請る子供のような姿にプッと噴き出す。
「プリンはあとです。ご飯を食べて、お薬を飲んで、そしたらご褒美にあげますからね」
幼い子供にするようにそっと汗ばんだ髪を撫でた。
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