転生司祭は逃げだしたい!!

文字の大きさ
上 下
35 / 62
【その後】

転生司祭は看病する 2

しおりを挟む


「ご機嫌よう、司祭様。この先で勇者様のお姿を拝見しましたわ」

いつも身の回りの世話をしてくれるメイドに挨拶したらそう返された。


「あっ、司祭様!勇者様なら鍛錬場ですよ。聖女様は……どこだろう?」

「午前中なら温室でお見掛けしましたよ」

胃薬を横流ししてる宰相補佐室の文官たちに声をかけられた。


「勇者様ならあっちです!」

敬礼した騎士にあっち、と指をさされた。


聞いてもいないのにアーサーやユリアの居場所や動向を事細かに教えて下さる皆様。

何が一番変わったかといえばこれだ。
確かに待遇は良くなった。
信頼、尊敬、親しみ、そういった感情を向けられているのもわかる。

だけど、国を救った英雄云々っていうよりも……

“保護者” “飼い主” “唯一の常識人”

認識的にはそういう感じだ。
特に前者二つ。

後者は……アーサー、ユリアもそうだが、基本的に皆ぶっ飛んでるからね。

城にまだ滞在してる僕らは国からの要請を受けて知識や技術の提供をしてる。
僕が語った「自分たちは何もしないで、全部押し付けて」って発言を真摯に捉えてくれた結果だ。
自分達の能力を鍛えようとする姿には好感が持てる。アーサーやウルフがいま騎士団の鍛錬場に居るのもその一環。

だが、ここで問題発生。

勇者パーティ、人外疑惑。

もうね、本当に規格外なんだわ。
しかも自分達が特殊なことはわかっていても、どのくらいズバ抜けているかわかってない彼らが一般人に要求するのは「出来るかっ、ボケぇ!!」「俺ら人間なんで!!」と声を荒げたくなるレベル。
そして間に入るのが僕の役目。

喧嘩を始める皆を宥めることなんかもあるから近頃は “救世主!” って目を向けられることも少なくない。

そんな僕だが、先程から「司祭様」「司祭様」と呼ばれていることからも分かる通り、司祭からのジョブチェンジは叶わなかった。

いや、めっちゃ止められたんだよね。
教会の上層部にもだし、王様や騎士団長含め諸々に。

勇者と聖女最終手段召喚しちゃおうかとも思ったが、事態は無事解決を見せた。

「特別な地位につかないで自由にしてていいから、所属はそのままで、最低限の式典やなんかだけ顔出して!武器以外なら刃物も使っていいから!!(意訳)」

稀にない神の寵愛を受ける司祭をキープしたい&広告塔に使いたい教会側が出した妥協案だった。

大人の取引ってやつですね。
そもそも神託じゃないし寵愛ないけど……。

昔、水泳の大会で優勝しまくってた友達がいて、部員たった一人の「水泳部」が設立されたことを思い出したよ。
学校にプールないのにね。
部として所属させたら学校の宣伝になるもんね。それと一緒だ。

世の中の世知辛さと強かさに想いを馳せながら歩いていると、回廊の隙間から鍛錬場が見えてきた。
固唾を呑んで見守る騎士たちの中心にいるのは、剣を構えたアーサーとファイティングポーズを決めたウルフ。

「あれ……?」

僅かな違和感に目を瞬く。
視線の先には残像に近い動きで激戦を繰り広げる二人の姿。

気付けば足は駆けだしていた。

「ウルフっ止めろっっ!!」

叫びと共に紡いだ魔法。

繰り出された蹴りは止まることも出来ずにアーサーへ。
だが、直前の僕の叫びに動きを止めようとしたことが幸いし、内臓を抉りそうな一撃はアーサーの前に生まれた風の障壁に止められた。

ほっと大きく息を吐く。

ウルフの全力の蹴りならあの程度の障壁など容易く突き破っていたことだろう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

【完結】イケメン旦那と可愛い義妹をゲットして、幸せスローライフを掴むまで

トト
児童書・童話
「私も異世界転生して、私を愛してくれる家族が欲しい」  一冊の本との出会いが、平凡女子をミラクルシンデレラに変える

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

昨日の敵は今日のパパ!

波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。 画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。 迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。 親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。 私、そんなの困ります!! アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。 家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。 そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない! アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか? どうせなら楽しく過ごしたい! そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

処理中です...