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転生司祭は逃げられない 8
しおりを挟む「割り切れないんですよ」
はぁ、と溜息を吐いて前髪をくしゃりと握る。
「村の悲劇も、ハイエルフに戦争をしかけるのも、その他の愚行の原因となる未来も防いだ。未然に防いだ罪で裁くことは出来ないし、ましてはアレは一国の王です。国の今後の為にも正当な方法で裁かれ代替わりがあるべきだ。わかっていても苛立ちも憎しみも消えない」
正直、ボッコボッコにしてやりたかった。
……いや、待てよ?
一発、殴るぐらいはいいんじゃないか?
拉致監禁っていう被害被ってるんだし、正当な権利では?
はっとして顔を上げればその考えはすぐ消えた。
一発殴るどころかぶっ殺しちゃいそうな面々が目に入ったからね。
うん、手出し厳禁。私刑はだめだよねー。
「性根のそのままだったあの王はともかくとして、国の人間も……ぶっちゃけ全て苛立たしいんですよ」
「国の民も……?」
「誰も彼もお祭り騒ぎ。わかってるんですよ、人々の喜びも安堵も。だけど……無責任にはしゃぎ、彼らを持ち上げる人々を見て思わずにはいられないんです。「自分たちは何もしないで、全部押し付けておきながらいい気なものだ」って」
驚いたみんなの目が痛い。
ええ、そうですよ。穏やかな笑顔を取り繕いながらそんなことを思ってましたよ。
「だって知ってるんです。憎しみを、怨嗟を宿した彼らの表情を。私が知っている未来は……もっと酷くて、人々にも余裕がなかった。訪れた村や町で「どうしてもっと早く来てくれなかった!」「お前らの所為だ!!」そう罵って石を投げつけた彼らを知ってる。その言葉を、憎しみを、村の悲劇を、背負わなくていい責任の全てを黙って背負い込んでいたアーサーたちを知ってるんです」
逃れられない痛みを、傷を、まるで転嫁するように。
「何故、そんなことができるんです?何も悪くない、自分達を助けてくれた相手に。『勇者』だからですか?『聖女』だからですか?『特別』な力を持つ者相手なら、どんな責任も痛みも押し付けて構わないとでも?どうして何も思わないんです?アーサーもユリアもまだ子供で、ヨハンなんてまだ十代にもならないんですよ?どうして簡単に全てを背負わせられるんです?」
ああ、胃が痛い。
「 “仕方がなかった” んだって、わかってるんです。
『特別』でもなんでもない弱く平凡な人々にはどうすることもできなかったんだって。だけど私はそれを憎んだ。誰よりもその権利がないのは私自身なのに」
だけどこの痛みは、自業自得。
「私は未来を変えた。だけど、変えなかった。
自らの“導き手”としての役割を。アーサーやユリアの未来を変えてあげなかった。みんなを旅へと連れ出した。未来を知っているから、魔王を討伐するために “仕方がない” そう言い訳を重ねて利用したんです。責める権利なんてないのはわかってます、結局私は彼らと同じどころか誰よりも罪深い……」
「違うもんっ!!」
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