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転生司祭は逃げだしたい(勇者パーティ視点)5
しおりを挟むミシェルが胃痛に耐えかねて逃亡を果たしてから数日、城は異様な静けさに包まれていた。
街は未だ魔王討伐の華やぎに溢れ、だがその一方で王都の中心でもある王城は奇妙な緊張感に支配されていた。
連日のように行われていた会食やパーティーが鳴りを潜めた。
王や勇者一行の姿を見かけなくなった。
厳しい表情をした第一王子が側近らと密談している。
騎士たちが物々しい雰囲気で見回りをする姿が目に付く。
それは、張りつめた糸の様な危うい静寂。
まるで、そう 嵐の前の静けさそのものだった。
嵐の中心だろうその存在。
アーサーたち勇者一行は囚われていた。
がらんと広い室内は、数日過ごした自分達に与えられた客間の豪華さとは比べものにならないが客間としてはそれなりだ。出される食事も、用意される衣服も客人に対するものとして不足はない。
ただし、それもすべて……
巻き付けられた拘束と、武装した見張りの存在さえなければ、だ。
ミシェルの突然の失踪は勇者一行に混乱をもたらした。
特にアーサーとユリアに至っては混乱というか錯乱状態。
城中をミシェルを求めて爆走し、止めようとしたウルフと乱闘を繰り広げ、シルフィーナの精霊魔法で見たミシェルの状態にまた恐慌状態に陥った。
「今頃あの子ら泣いちゃってるかなぁ」どころじゃない。
「アーサーさんたちが闇堕ちしちゃうかと思いましたぁ」えぐえぐ泣いたヨハンは後にそう語った。
すぐに城を飛び出てミシェルの捕獲……もとい捜索に乗り出そうとした彼らを止めたのは王。
捜索隊を編成することを約束され応じた彼ら。
もちろん、闇堕ち寸前の勇者と聖女はすんなり納得しなかったがジャンが何とか説得した。
行き先の手掛かりもなく、何らかの対策済みだったのか獣人のウルフの嗅覚でも、シルフィーナの精霊魔法でも居場所を辿れない。
ならば王都に土地勘のあるものに人海戦術で当たってもらった方が早いだの言葉を尽した。
口にした言葉は本心でもあったが、なにより必死だった。
何故なら止めないと「うるせぇ、知るか!邪魔すんな!」とばかりに人間相手に大虐殺が始まりそうだったから。
その時から拘束されていたわけではない。不穏な対応もなかった。
事態が急変したのは三日目。
一日目は錯乱し、二日目は廃人化し、だんだんと瞳から光が失われ、ぶつぶつと不穏な言葉も混ざりはじめ、いよいよ闇堕ちの気配が濃厚になってきたアーサーとユリアの我慢が臨界点を突破した。
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