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転生司祭は逃げだしたい 3
しおりを挟むそうして、僕がどうしたかというと。
▶『 しさいは、にげだした 』
お偉いさんとの会食やら何やらが終わった勇者パーティのみんなに最後に顔を合わせてから、荷物を纏めて城から逃亡した。
もちろん、逃げることは言ってない。
顔を合わせたみんなは僕のことをやたらと心配してくれて、その優しさにしくしくと胃が痛んだ。
なんせ、凱旋パレードも会食も具合が悪いを理由に欠席したからね。
特に勇者のアーサーや聖女のユリアなんかは、「それなら自分も欠席して看病します!」って言って聞かないのを無理矢理に宥めたくらいだ。
おまけの僕はともかく、主役が居ないって駄目でしょう。
「置手紙を置いてはきたけど……今頃あの子ら泣いちゃってるかなぁ」
「だぁーれが、泣いちゃってるんですか?ミカエルさんてば、彼女を地元に置いてきたんですかー?」
テーブルを拭きつつ呟けば、背後から声がかかった。
興味津々で覗きこんでくるのは看板娘のレーネだ。
「あっ、でも今“あの子ら”って言いましたよね?もしかしてミカエルさん、既婚者?!妻子を捨てて家を出たとかっ?!」
ちょ、本当にやめてっ。
声、大きいからめっちゃ周りに見られてんですけどっ?!
「違いますよ。生憎と独身ですし彼女もいたためしがありません」
ずっとお一人様ですが何か?
いや、昔から子供らの面倒みてたし、一人ではなかったけど。
「えっ?マジですか??ミカエルさんてばめっちゃイケメンなのに!」
礼をいいつつ、テーブルを拭き上げ、隣のテーブルの皿を重ねて運ぶ。
その後ろをレーネが「本当?本当にですか?」と問いかけながらついてきた。
ここは王都のとある定食屋。
そして僕は“ミカエル”と名を変え、この店で働いている。
偽名がそのまんますぎるが、洗えば落ちる染料で髪を薄い茶から黒っぽく染めていることもあって全然バレない。まぁ、凱旋パレード以外で勇者一行の姿を見たことある市民は少ないし、あっても僕の印象などないに等しいのだろう。
そんな僕だが、なんと、イケメン店員として大人気だ。
外見も中身も超一流集団の中にあっては圧倒的“地味”だったミシェルだが、世間一般から見れば充分“イケメン”。
僕はちょっと希望を取り戻した。
本来ならとっとと王都を出て、田舎にでも引っ込んだ方が見つかる可能性は格段に減るんだけど……ちょっと、そうできない事情があるんだよねぇ。はぁ、と溜息。
「うーん、店選びを失敗したかも」
宿の一室、城のとは比べものにならない寝台に寝ころび天井を見上げる。
仕事は楽しい。接客は嫌いじゃないし、洗い物だって同じく。店の人達もいい人たちだし、賄いも美味しい。でも……。
「料理、したくなっちゃうんだよなぁ」
洗い物を手伝うことはあれど、担当は厨房でなくホール。
何故なら、店のみんなには秘密だが、僕は刃物が扱えない。
別に不器用だとか料理下手という意味ではなく、中世ヨーロッパと同じく聖職者は刃物の扱いを禁じられているからだ。まぁ、本来の意味合いとしては剣とかを指すんだろうけど、聖職者=刃物ダメのイメージが強すぎて結果、包丁が使えない。
野営での食事は主に僕が担当してたけど……刃物NGのために切るのは人任せ。
部位関係なくもれなくぶつ切りにされていく食材を前に歯がゆさがハンパなかったんだ!!
なんせ僕、前世は小さいながらも自分の店も持ってた料理人。
料理大好きな僕にとって刃物を持てないことは拷問に近い。
穏やかな日々が数日過ぎたある日、不穏な噂を耳にした。
「勇者様たちが?」
「ええ、最近はめっきりお姿を見かけないそうよ」
お話し好きの常連マダムによると、ここ数日、勇者一行がまったく姿を現さないらしい。
「しかも」
ちょいちょいと指で招かれ、内緒話の体をとったマダムに耳を寄せれば、自分で呼んでおいて頬を染めたマダムは驚愕の情報を囁いた。
「勇者様たちは監禁されてるって噂もあるの。なんでも、聖女様に魔力封じの首輪が付けられていたんですって」
「あ”?」
有り得ない、そう思いたい。
でも、そんな暴挙をやりそうな馬鹿に物凄く心当たりがある。
いや、でも……あの馬鹿にアーサーたちが遅れをとるとも思えない。
馬鹿が馬鹿やろうとした瞬間に反撃すれば全て解決でそれが可能だ。
さらにマダムは城内で第一王子派の不穏な動きがあるやら、騎士団が秘密裏に動いているやら様々な情報をくれた。
情報通すぎるだろう、マダム。
マダムの情報網どうなってんの?と思えば、城で文官として働く甥っ子がいるらしい。
それにしても詳しすぎるよ。
甥っ子、本当に文官?諜報とかじゃなくて??
僕が裏ルートで依頼してるプロより情報通なんですけど……。
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