あやかし居酒屋「酔」

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◆・◆ お品書き ◆・◆

旨みたっぷり、きのことベーコンのバター醤油パスタ

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大鍋にお湯をたっぷり沸かしている間、綾は手早くお酒をつくる。

太郎が持ってきてくれたカシスリキュールでつくるのは定番のカシスオレンジだ。
爽やかなシトラスの風味がサッパリで女性に人気のカクテルです。

「雪音さーん、氷もらってもいいですか?」

「もちろん、お安い御用よ」

アイスペールを渡せばたちまち手頃な大きさの氷が山盛りに。

雪女さんはとっても便利です……以前、暖房代がかさむという理由で失恋したこともありましたが。な、夏は大活躍ですよね?

「私もー!」と次々挙がる手に「はーい!」と応えてカシオレを量産しつつ、奥の座敷へと視線を向ける。

「若葉さんもどうですか?」

にっこり笑顔で問いかければ慌てて視線を逸らす若葉。
興味を持ったのがバレて恥ずかしいのか僅かに耳が赤い。

「そ、それはなんなの?」

「カシスオレンジっていうお酒です。果実を使ったお酒なので甘くてサッパリしてます。アルコール度数は低めですけど美味しいですよ」

「……じゃあ、もらうわ」

どうみても興味深々だったくせに、あえてツンとした態度の若葉に雪音が肩眉をあげて口を開こうとしたのを綾は軽く首を振って止める。糸織も宥めるように苦笑いを雪音に向けた。

二人に止められ、雪音はむぅっと唇を尖らせ軽く睨むように綾と糸織を見る。

雪音としては綾を攫って怪我までさせた彼女たちがただでさえ気に食わないし、当の綾がなにも気にしてないのも不服だった。
もうっ、と髪を掻き上げる彼女に冷え冷えのカシオレを差し出す。

「小娘が呑気なのはいまに始まったことではなかろう」

「そうだけどっ!」

「え、ちょっと九十九さんも雪音さんもひどくないですか?!」

「事実だろ」

「羅刹さんまでっ!」

じゃれている間にカシオレは太郎が若葉へと届けた。

はい、と若葉にカシオレを差し出す太郎を剛鬼が軽く睨みつける。

そしてカウンターへと戻る途中、「ところであれ誰?」と座敷の常連さんたちに捕まった太郎が羅刹を指さし「妹」と一言答えると数人の男性客ががっくりと肩を落とした。

見慣れぬ美少女が気になったものの、鬼の統領様の妹に手を出す勇気はないらしい。

あちこちで微妙に渦巻く恋愛模様を眺めつつ、フライパンで刻んだニンニクとベーコンを炒める。

食べやすい大きさに切ったエリンギと舞茸も加えて炒め、パスタも投入。

クリーム系は食べ慣れない相手にはちょっと冒険なので、味付けは無難にバター醤油にしてみた。
溶けたバターと醤油の香ばしい香りがなんとも食欲をそそります。

仕上げにネギと海苔を散らせば完成。

他の料理も散々食べた後なので一人ずつではなく幾つかの大皿に盛って取り分けスタイルでの提供にした。

「お腹はいっぱいなのですけど……とっても美味しそうですわ」

「食べれるだけ食べたらいいですよ。余ったらタロくんや羅刹さんにまわせばいいですし」

「ん、食べる」

毎回、きっちり片付けてくれるので大助かりです。
逆に足りなくて困る時もあるけど……。

なんだかんだでパスタも大好評でなくなりました。
バター醤油、おいしいですよね。

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