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◆・◆ お品書き ◆・◆
ほっとする美味しさ!栄養満点、豚汁(準備中)
しおりを挟むなんでこんなことになったのか…………。
綾は途方に暮れていた。
現状、綾は運ばれている。
荷物のように肩に担がれ、腹に喰い込む振動が地味につらい。
突然知らない人たち(人じゃないけど)に襲われ、わけもわからぬままに攫われた。
つい数十分前まではいつも通りの日々だった。
そのはず、なのに…………。
昼食を食べ終え少しして、綾はいつも通り「酔」へと向かった。
料理の下拵えのためだ。
今日は肉祭りを開催しようと計画していた。
髪にちょこんと咲いた可憐な一輪の花。
つい先日から綾の髪を彩る簪のお礼がしたいと思い、材料は既に買い込み済み。
わりとなんでも美味しく食べてくれる羅刹と蒼だが、好きな食べ物はと聞けばまず間違いなく「肉」「お肉!」と返ってくるだろう。
それ故の肉祭り。
メインに考えているのは豚の角煮、とんかつに豚汁。
もちろん他のお客さまもいるし、お肉以外のメニューも用意するが今日のメインはその予定だった。
まずは大鍋で作る豚汁の準備に取り掛かった。
皮をこそげ落としたゴボウをささがきにする。
シャッシャッシャッシャっとリズムよくささがきにするのはわりと楽しい。綾の好きな作業だ。
皮を剥いた大根はいちょう切りに、人参は半月切りにし、長ネギは斜めに薄切りに。
コンニャクを熱湯であく抜きし味が染みやすいように包丁でなく手でちぎった。火傷に注意!
一口大に切った豚バラを鍋にごま油をひいて炒め、根菜類を加えてさらに炒める。お水や顆粒の和風だしも加えてひと煮立ちさせ、アクをとりながらしばらく煮込む。
途中でコンニャクも放り込み、みその入れ物を開けて「あっ」と思わず声を出した。
中身がほとんど入ってなかった。
他の材料は持ってきたけど、みそはまだストックがあると思って失念していた。
……とはいえ、屋敷の方には買い置きがあるのでさして問題というほどでもない。
取りに戻るか、と一度火を止め鍋に蓋をした。
ほんの数分のことだが念のために入口の戸締りをして、先程来た道を戻った。
「あら?どうかいたしましたか?綾様」
土間へと足を踏み入れたところで奥から妙齢の女性が出てきた。
どこか寂し気な線の細い美女はこの屋敷に仕える柳女の笹女。綾もなにかとお世話になっている女性だ。
「お味噌きらしてたの忘れてて。取りに来ました」
えへへ、と頭を掻きながら照れ笑いで告げればすぐに笹女が取ってきてくれた。
「他に必要なものはございませんか?」
「はい!ありがとうございます。笹女さんもたまには息抜きに飲みに来てくださいね」
お味噌を受け取り、戻る途中だった。
突如、前方に六、七人ほどの人影が立ちふさがった。
驚いて足を止める綾を値踏みするようにじっくりと眺める見知らぬ男女。
その視線が不意に止まった。
「この女よ」
紅一点の若い少女が口にしたその言葉を合図に、男の腕が綾へと伸びた。
「ちょっ、なに……」
後退ろうとした足はあえなく止まり、拘束された腕の中で身を捩る。
手にした味噌の容器が地面へと落ちた。
「ちっ、大人しくしろ」
若い男の手が綾の口を塞ぎ、そしてそのまま手ぬぐいで口元を縛られた。ふわりと足が地面から浮く。
「行くわよ」
周囲を気にするように視線を走らせ、そのまま走り出す男女。
そうなれば当然、男に担ぎ上げられている綾の身体も強制的に移動させられるわけで……。
じたばたと暴れながら、遠ざかる屋敷へと手を伸ばす。
以上、回想おわり。
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