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◆・◆ お品書き ◆・◆
皮がパリッと!具だくさん春巻き 1
しおりを挟むパチパチと小さく油が爆ぜる音が響く。
揚げ物用の鍋の中でほんのりと色づいた春巻きを菜箸で順番にひっくり返す。
いい感じの色づきだ。
反対の面もこんがり揚げ色がつくまであと数分だろうか。
「綾ちゃん!綾ちゃん!!」
勢いよく扉を開くなり満面の笑みで声をあげたのは蒼だった。
いつも元気な蒼だが、今日はなにやら一段とご機嫌なようだ。
「いらっしゃい蒼くん。どうしたの?楽しいことでもあった?羅刹さんもお疲れさまです。春巻き、もう少しで揚がりますよ」
声をかけつつ、いつもの特等席を勧めれば、寡黙に頷いた羅刹が椅子を引いてどしりと腰かけた。
だけど蒼はといえば、椅子によじ登ることもなく羅刹の袖をぐいぐいと引く。
「とーりょー!」
「後でいいだろ」
「やだっ!いまがいいっ!」
なにやら珍しくもめている。
蒼のだだに首を傾げつつ、呆れを前面に出した羅刹が「せめて火を使い終わるまで待て」と幼子を宥めてくれたので、綾は有り難く作業を優先させてもらうことにした。
両面しっかりきつね色にあがった春巻きを油切りして包丁で斜めにカットする。
パリパリに揚がった皮と、ホカホカと湯気を立てるたっぷりの具材が我ながら美味しそうだ。
具材は鶏に水煮のたけのこ、ニンジン、干しシイタケに春雨といたってシンプルな基本の春巻き。
海老などの魚介類を入れたのも美味しいし、ベーコンやチーズ、明太マヨ餅などのおつまみ春巻きも美味しいが、今日はオーソドックスな春巻きの気分だったので。
揚げたてを提供し、一息ついたところで「お待たせ」と蒼へと向き直る。
ハフハフしながら春巻きを食べていた蒼は口の中のものをごっくん!と飲み干すと「とーりょー!」と再び羅刹の袖を引っ張りはじめた。
ちなみに「とーりょー」とは「統領」の意味。
語尾を伸ばしてるせいでもはや違う言葉になっているが……。
「ほら、やる」
「え?」
早く早く!と急かされ揺すられながら羅刹が袂からから出したのは小振りな包みだった。
差し出されるままわけも分からず受け取り、呆然と手の中のそれに視線を落とす。
「綾ちゃん早く!開けてっ」
促され、戸惑いながらも包みを開いた。
カサリ、と音を立てた包みの中には…………一本の簪があった。
「かわいい……」
小さな薄紅の花がついたそれに思わず自然に声が漏れた。
何層にもなった花弁はつるりと光沢のある素材でできており、大きさこそ小振りで派手さはないがとても手の込んだ可愛らしい簪だった。
「気に入った?」
カウンターテーブルに乗り出すように覗きこんでくる蒼に「う、うん」と頷きながらも戸惑いを消せないままに羅刹を見る。
「ら、羅刹さん、あのこれっ」
「やる」
いたって簡潔に答えた羅刹はそのまま春巻きを口に入れる。
一口で半分に切った春巻きが消え去った。
「い、いえそんなわけには……っ。しかもかなりお高そうですしっ」
「……気に入らなかったわけではないんだろう?」
「もちろん!すっごい綺麗で可愛いですけどっ!」
「なら貰っとけ。それなら邪魔にならないだろ」
何気なく放たれたその一言に綾は目を見開いた。
それはつい先日の会話だ。
酒や料理の料金について「安すぎる!」と謎の逆クレームを受けたあの日、話題はそのまま綾のオシャレへと移行した……。
切っ掛けは九十九と雪音。
「金など幾らあっても困らなかろうに。若い娘なのだから着飾ってはどうだ?」
「そうよね!もっと稼いで服だの小物だの買えばいいじゃない。せっかく可愛いのに」
普段は喧嘩ばかりしている癖に、実に息ピッタリに綾にオシャレを勧めてきた美意識高めな二人。
「えー、ビラビラ着飾ったらお料理するのに邪魔じゃないですか。私的には着物ってだけでテンション上がるし、この恰好、動き易くてお気に入りです!」
飾り気も少なく、たすき掛け姿でそう綾は胸を張った。
それは紛れもない事実だったし、だがそのあとでぽつりと漏らした「そりゃあ私だってオシャレに興味がないわけじゃないですけど……」という呟き。
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