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◆・◆ お品書き ◆・◆
草食?肉食?とろとろロールキャベツ 2
しおりを挟む「爪楊枝に気をつけてくださいね」
メインのロールキャベツ本体に手を伸ばそうとする面々に慌てて声をかけた。
ロールキャベツをぐるりと包むベーコンを止めるのに爪楊枝を使用している。
知らずにかぶりといくと非常に危ない。
小さなお子様なんかがいる場合は事前に抜くか、パスタを止めにするのもありですよ。
先程のロールキャベツ系男子の話題から人間の世界の話になった。
多彩な文化や造語にあやかしたちは興味津々だったり呆れ気味だったりと反応は色々だ。
「……とはいっても、知識はあるけど記憶が全くないんですけどね」
あはは、と乾いた声で綾は笑う。
別に記憶がないことの悲壮感はなかった。
ただ、はっきりした記憶がないくせに流行だの店だの映画の内容だのはちゃんと覚えている不思議。
「人間の世界でも綾さんはお店をしてらっしゃったんですかね」
箸でとろとろになったロールキャベツを切りながらの糸織の言葉に綾はお玉片手に首を傾げた。
「どうだろ?そもそも調理師免許持ってない可能性もあるし。料理は好きだけど手抜きも多いしなぁ。お店やってたかって言われると微妙な気がします」
「我もそう思う」
空になった皿を差し出された。
本格的に口にあったようだ。
言われた綾自身は特になにも思わなかったが、雪音がムッとした顔をして九十九の方へ身を乗り出した。
「何よっ!そーいう割には常連じゃない」
「文句あるなら食うな」
横目でチロリと見た羅刹も素っ気なくそう口にする。
ちょっぴり険悪な雰囲気に慌てる綾だが、おかわりの器を受け取った九十九は意にも介さず、ふんと鼻を鳴らしてあしらった。
「手がかかっていようといまいと味が良ければそれでよい。我が言ったのはそういう意味ではないわ」
「じゃあ何よ?」
「料理人としてではなく商売人に向かぬ、という話だ。金勘定の出来ぬ商売人など店が潰れるだけであろう」
「「「あっ」」」
声がハモった。
実に納得しまくったその声と表情が居た堪れない。
「そんな全力で納得しないでくださいよ!」
「いやだって、これはアイツの言う通りだわ」
雪音の言葉にうんうん頷く糸織や太郎、酒を口に運びながら呆れた目を向けてくる羅刹。
味方がどこにもいなかった。
「価格設定が可笑しい」
「可笑しいどころの騒ぎでなかろう。鬼の、一体どう教えておる」
「俺は言った」
非常に珍しいことに、短いが会話のキャッチボールが生まれていた。
話題が話題だけに素直に喜べないが……。
「言っとくけど、よそで飲んだらここの10倍はするからね?」
「10倍っ?!」
「いえ、雪音さん。「酔」の料理とお酒は特別ですもの。それを踏まえれば20倍でもおかしくはありませんわ」
「ぼったくりではっ?!」
思わず綾は叫んだ。
「……普通」
「お前な、前々から俺が言ってるだろう」
淡々と太郎には返され、カウンターに頬杖をついた羅刹に呆れた溜息を吐かれて終わったが。
いや、だって……20倍。
どう考えてもぼったくりバーのレベルでは??
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