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◆・◆ お品書き ◆・◆
通なおつまみ、酒盗と湯豆腐
しおりを挟む珍しいお客さんの姿に綾は顔を綻ばせた。
「いらっしゃい、幸ちゃん」
視線を少し下げた先、そこにいたのは和装の少女だった。
肩の辺りで切りそろえたおかっぱ頭につまみ細工の紅白の花をつけた可愛らしい少女。
「お久しぶりです」
はにかむようにそう微笑んだのは座敷童の幸だ。
座って、と席を示せばカウンターの椅子へと腰を降ろす幸。
おしぼりと共にお品書きを渡す。
メインのメニューは基本的に綾の気まぐれなので、その時々にささっと紙に書き出すぐらい。
なのでいま幸に渡したお品書きは常備メニューが載ったものだ。
乾きものや瓶詰の珍味の類、冷奴や枝豆など手間がかからずパパっと出せるものが中心です。
「お酒は、冷酒を花冷えで。肴は……なににしましょう?」
とりあえずお酒を頼み、おかっぱ頭を揺らす少女の外見年齢は座敷童の名前の通り幼い少女。
蒼よりは大きいが年齢にして10歳前後だろうか?
「ううっ……幸ちゃんにお酒を提供する背徳感……」
「綾さんってば。いっつも言ってますけど、私300歳超えてますからね?」
どうしても“飲酒法”の言葉が脳裏を過って仕方がない。
震える手でお酒を差し出す綾に幸は苦笑いを浮かべる。
そう、幸は年齢で言えば子供ではない。
綾など赤子に満たない程の年上なのだ。
そうわかっていても見掛けに惑わされる綾だった。
実際、幸は子供ではない。
考え方だってしっかりしているし、物腰だって落ち着いている。
花冷えという言葉だって、綾は彼女から聞いてはじめて知った。
10度程度の「花さえ冷たくなる温度の日本酒」のことらしい。他にも涼冷えだの雪冷えだのという温度もある。
日本語って雅ですよね。
「肴には湯豆腐と酒盗をいただけますか?」
「相変わらず渋いっ!」
本当に見かけとのギャップが強い。
こんなに可愛らしいのに!
チョイスが激渋だった。
湯豆腐を温めながら、酒盗の瓶をあけて小皿に盛り付ける。
まずは酒盗の皿を置けば、ちびりと摘みしみじみ杯をあける姿は子供なのにお客さんの誰よりも通な感じが滲み出ていた。
「でもちょうど良かった。今日のお勧めはカツオのたたきなんですよ。香味野菜たっぷりです」
「わぁ!それも後でくださいな」
お酒好きには好きな方も多い酒盗は簡単にいえばカツオの内臓を使った塩辛だ。
独特の臭いや味が苦手な人もいるが塩辛よりも長期間発酵させているのでコクと深みも強い。
まさにお酒を盗むおつまみ。
そのまま提供することもあるし、男性客にはじゃがバターの上に乗せて出すこともある。
塩気がじゃがバタにちょうど良く馴染むし、お腹も膨れる一品に早変わりなのです。
「湯豆腐もお待ちどおさま」
こちらは昆布の旨みと豆腐を薬味で味わうシンプルな仕上がり。
特性ダレなどを作っても美味しいが、今日はあえて醤油でシンプルに。
て、手抜きじゃないですよ……?
お豆腐はあまり加熱しすぎるとスが入ってしまうし、食感が悪くなって味も落ちゃうので火加減には要注意です。
美味しいとは思うし、決して嫌いではない。
なにより栄養があってかつヘルシー。罪悪感を感じずに済むところが素晴らしい一品だ。
だがしかし、酒の肴にはガツン!とした強さを求めてしまう自分がいる。
しみじみお酒と湯豆腐を味わう見かけは子供の幸を見て「湯豆腐でお酒が呑めるって大人」そんなことを綾は思った。
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