おままごとみたいな恋をした

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カオス

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 拝んでくる人が増えた・・・。
 それがジルベルト達の仕事の手伝いに復帰して最初に抱いた感想だった。

 怪我から二か月弱を過ぎて漸く、クローディアは外出することを認められた。
 最近皆、過保護すぎる。
 行き先はほぼオルセイン邸とジルベルトの仕事場のみ。買い物に行きたい所だけど、未だ注目が収まらない今人目のあるところは自重している。

 仕事場といっても、クローディアがいるのはあの小部屋ではない。

 ジルベルトの執務室。彼の部屋に居られない時はゼロスの執務室や、協力を申し出てくれたフレイヤの執務室など。これは以前ゼロスが言っていたように小部屋だと興味本位で押しかけてくる人達対策。一緒にいるのがセオだけだと、立場の強くない彼では 如何どうしても躱しきれない場面もでてくる。

 そして侍女もかつてとは違いクレアとマリーの二人体制。

 常に権力者と二人の侍女に挟まれているお蔭で下手に絡まれることは少ないのだけれど・・・何故か移動の際など拝んでくる人が以前より増えている。

「主にゼロス様の所為ですわね」

「は?ナニが?」

 現在はゼロスの執務室からジルベルトの執務室への移動中。

 此方を拝んでくる人達を横目に頷きながら呟けば前を歩くゼロスが振り向く。
 視線で指し示せば「ああ」と納得の声。現在此方を拝んでる人は確か彼の部隊。ならば理由は彼の仕事に関してだろう。

「崇められる経験なんて普通の人じゃ滅多にナイし別にいいじゃん」

 ・・・別にそんな経験は要らない。
 軽く言い放つゼロスに小さく溜息を吐く。

「おっ!クローディアちゃんじゃん。クレアちゃんとマリーちゃんもちわー」

 丁度前から歩いてきたアルバートが片手を挙げながら軽薄に声を掛ける。隣にはヴィンセント。

 改めて再会してすぐにヴィンセントからは諸々について謝罪を受けていた。そういうとこはやっぱり礼儀がいい。言葉遣いや態度も改めてくれようとした彼にクローディアは今まで通り接するように頼んだ。

 だって違和感。
 別に元々気にしてないし、今まで邪険にされてた相手に急に丁寧に接せられるのは逆に居心地が悪い。

「今日はゼロス団長のとこだったんだ」

「だって仕事が終わったからね!」

 胸を張って答えたゼロスの言ってる意味は、自分の仕事を無事終わらせたから聖女の話を聞いていた、だ。
 つまり今まで行われていたのは仕事ではなく雑談。

 意味を悟った二人はそっとジルベルトを憐れむ。
 同時に自分の上司がまともで良かったと心から感謝した。

 まぁ、でも眼の前の餌に釣られてとはいえ、仕事を終えただけゼロスとしては上出来だ。
 微妙に周りの視線を集めながら廊下の一角でそんな雑談を交わしていた時。


「・・・ディー・・・?」

 呼ばれた名に、クローディアは視線を彷徨さまよわせた。
 そしてその先に捉えた人物に呆然とする。ショコラブラウンの髪と瞳、身なりのいい背広を着こなすその人物は此処にいる筈のない人で。

「・・・・レイ」

 唇から無意識に名前が零れ落ちると同時にレイが此方へと走ってくる。共に居た連れの二人が慌ててレイを止めようと手を伸ばす。
 「あの男」と眼を丸くして呟くヴィンセント。

 そんな中、クローディアは。

 咄嗟に隠れた。
 眼の前に居たゼロスをひっつかんで後ろに隠れる。

「ナニ、ナニ?何なの?!」

 突如盾にされたゼロスが叫ぶが、別に考えがあったわけでもなんでもなく唯の反射の行動だった。ゼロスの眼の前に止まったレイがもう一度「ディー」と呼ぶのにびくりと肩が跳ねる。

 恐る恐る窺うようにゼロスの背後から見上げれば、視線が合った途端。

「この髪、やっぱりディーが噂の聖女様だったんだね。怪我はっ?!大丈夫なの?!」

 盾にしていた筈のゼロスが退けられ、両肩を掴まれて矢継ぎ早に問いかけられた。
 クレアが警戒を表すも、知り合いらしいのと害意が無い様子に伸ばされかけた手が止まる。

 酷く焦燥を孕んだショコラブラウンに、戸惑いながら「平気」と小さく呟けば安堵に下がる肩。レイの手がクローディアの髪を撫でる。黒から白に変色した髪を。

「本当に?本当の本当に無理、してない?」

 両手で頬を挟んで注意深く覗きこんでくる瞳にコクリと頷く。

「良かった」

 心からの安堵を滲ませて甘く蕩けるショコラブラウンに思わず泣きたくなった。
 顔を隠すようにぎゅうっっとレイに抱き着いて頭を擦りつければ、レイがぽんぽんと宥めるように優しく頭を撫でてくれる。

「もしかして、ヴィンスが前見たのってこの子?」

「・・・ああ」

「なんだー。女の子じゃん」

 アルバートの発言に「はっ?!」「えっ?!」とヴィンセントと侍女sから漏れる驚愕。

「レイチェル!?お前まさか聖女様とお知り合いなのか?!一体 如何どういう・・・。」

 突然の事態に対するレイの連れらしき人の 狼狽ろうばい

「ねぇねぇ、このコ誰なの?」

 クローディアとレイを見比べて首を傾げるゼロス。

「流石、女誑しなだけありますわね。レイに手を出したら許しませんから」

 レイの前に両手を広げて立ちはだかり、冷めた眼で一目で性別を見破ったアルバートを睨みつけるクローディア。



 色々とカオスだった。



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