おままごとみたいな恋をした

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この願いが叶うならば、神だろうと悪魔だろうと構いはしない

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 話し合いも終わったようで、仕事場へと戻るオズワルド達を見送る。
 玄関へと付き添いながら、見舞いをくれたフレイヤやヴィンセント達にお礼を伝えてくれるように頼んでいた時、ゼロスが首を傾げながら問いかけた。

「クローディアはいつから来れるの?」

 ・・・はい?

「仕事、大分溜まっちゃってるんだけど」

「いえ、別にわたくしの仕事ではないのですけど」

「申し訳ありません、クローディア嬢」

 オズワルドに頭を掴まれたゼロスは不本意そうな表情をしている。
 いや、そんな表情される筋合いはありませんけど。

「別にいーじゃん。実際クローディア来てくれたら仕事捗るし、クローディアだって暇してんデショ?小部屋じゃなくてジルベルトやボクの執務室に避難してれば絡まれるコトもないし」

「団長、クローディアは団員でなければ貴方の秘書でもありません」

「何なら給料払うよ?あ、入団する?ボクの秘書兼お菓子係とかでもいーし。オマエだって仕事進むし、心配して早く帰宅する必要なくていいじゃん。セオだって侍女のコと会えなくてへこんでるし」

 マリーの顔が赤い。
 確かに、それは一考の余地がある。
 お菓子係云々は置いといて。

「考えておきますわ」

「大怪我をしたのですから、まだ彼女は安静です」

 過保護なさまにアルバートがニヤニヤと笑ってるのにイラッとした。

「クローディア嬢、報告とは関わりがありませんが私も一つ興味本位でお聞きしても宜しいでしょうか?」

 敷地を出る前、問いかけてきたオズワルドに足を止める。


「貴女は何故、あの夜聖女としての能力チカラをお使いになられたのですか?」

「隠し通す事も出来た筈なのに?」

 切れ長なオニキスの瞳を見返す。

「そうね。わたくしは『出来損ないの聖女』だもの。自分の能力チカラが失われていないと気づきながらもそれを取り戻そうとも誰かを積極的に救おうともしなかった」

「そういう意味では・・・」

「構いませんわ。実際、あの夜だって土壇場までわたくしは何とか場をやり過ごそうとしておりましたもの。わたくしは自ら能力チカラを取り戻す気も、救えたかもしれない誰かを探して手を伸ばそうともしませんでしたの」

 だから『出来損ないの聖女』という呼称よびなは相応しい。


「だけど」

 決めていたことがあった。

「自ら進んで責務を果たそうとは思わなかったけれど、たった一度だけ。眼の前で聖女としての自分が必要な事があれば役目を果たそうとそう、決めてましたの」

 例えそれが、どんな結果になろうとも。

「聖女になった日、初めて神様に願ったの。
ジルを助けてって。その為ならわたくしの命でも人生でも捧げたって構わないって。
そしてわたくしは聖女になった」

 クローディアが願ったのは魔女ではなく。

 だけど、神だろうと悪魔だろうと何だって構わなかった。

「願いは叶えられたわ」

 魔女の取引を非難したオズワルドは笑うだろうか、愚かだと。

「結果が望むものと違っていたからと言って、契約を投げ出すのはフェアじゃないでしょう?」

 挑むように、覗きこんでオズワルドを見上げる。
 それは消極的で、だけど譲れないクローディアの最低限の責務だった。

 真面目なオズワルドでは理解できないかも知れない。
 彼ならば役目を果たすと決めたのならば精一杯それに取り組むのだろう。聖女でなんか在りたくないと願いながら、惰性のように聖女の役目に拘るクローディアは彼の眼にはどう映るのだろう。



「失礼」

 掛けられた声と共に手を取られた。

 白い団服の膝をついて跪いた彼に眼を瞬かす。
 純白の団服に黒橡の髪のストイックなオズワルドが跪く姿は酷く絵になったが、何故急に自分が跪かれているのかが理解出来ない。
 恭しく掬われた手の甲に一瞬だけ落ちた唇。吃驚しすぎて肩が震えた。

「貴女がどのような想いを抱えておられようと、結果として貴女の行動で沢山の人が救われた。心からの敬意と感謝を。
我々の力が及ばず、お辛いご決断をさせて申し訳ありませんでした」

 瞳を見開く。

 声も出ないままオズワルドを見れば切れ長なオニキスの瞳と眼が合う。
 見慣れないアングルと突然の事に瞬いていれば、いつの間にか彼に倣うようにジルベルトやゼロスやアルバートも跪いて首を垂れている姿に息を呑んだ。

 珍しすぎる姿に茶化すことすら出来ない。



 若干思考が追い付かないまま、彼らを見送ることになった。





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