おままごとみたいな恋をした

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建前は通した者が勝ち

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「対外的な説明として筋書きを考えましたの。それを共有して頂けるかしら」

 アメジストの瞳が一同を見渡す。
 全ての視線がクローディアへ向いた。クローディアはそれを受け止めてゆっくりと唇を開く。

「まず、前提としてわたくしとジルベルト様は幼い頃、恋人同士だった」

 向けられた瞳が一斉にきょとんと丸くなる。意味が掴めないでいる皆を置き去りにクローディアは言葉を続ける。

「シュネールクラインでわたくしが婚約破棄と国外追放をされた夜に運命的に再開を果たしましたの。彼はわたくしに求婚しマーリンへと連れ帰った。二人は一緒に暮らし始め、ある時レオン殿下からパーティーへの参加の要請があり殿下と再会、殿下とは円満な別れのご挨拶を。
そしてその夜に惨劇が起きた。
わたくしを庇い傷を負ったジルベルト様を助けたい一心で、なんと聖女の能力チカラが大覚醒!奇跡が起きた。だけどわたくしは今更シュネールクラインへ連れ戻されることになんて耐えられずに自らの命を絶とうとした。
そこで再び奇跡が。わたくしは無事に助かって今此処にいる。
と、いうことで 如何いかがかしら」


 ・・・
 ・・・・・・
 小首を傾げて言い切ったクローディア。


 その場に落ちたのは沈黙。
 痛いほどの沈黙だった。

 にっこりとクローディアは頷く。

「皆様、ご反論はなさそうなのでではそういうことで」

「いやいやいやいやっ!!!」

 沈黙を無理矢理反論なしと見做してにこやかに締めくくろうとしたクローディアにアルバートが全力で叫ぶ。勢いよく立ち上がった反動で椅子が倒れた。
 今まさに口をつけようとしていた紅茶の水面に映る表情が小さく歪む。
 思ったよりも復活が早かったことに不満気に歪んだ自身の姿を眺めながらクローディアは香りのよい紅茶を口にする。

「騒がしいですわ、アルバート様。クロード、席を戻して差し上げて」

「いや、誰の所為だと思ってんのっ?!何不満気な顔しちゃってんの?!」

「その説明は流石に無理があります、クローディア」

「国に今のハナシをしろと。キミ何気にイイ性格してるよね」

 先程の沈黙から一転、一気に場が賑やかになった。
 主にアルバートの所為。

「クローディア嬢、ジルベルトの言う通り、流石に今の話で国を納得させるのは無理があるかと」

 胡乱気な視線を受けながら指先をオーナメントクッキーへと伸ばす。さくりとしたそれを一口齧り、気だるげに取り皿へと置いた。

「何処がご不満ですの?」

「むしろ全部だよね!クローディアちゃんだってそんな莫迦みたいな話が通ると本気で思ってないよね!!」

「心外ですわ。わたくしは国を納得させるべく必死に考えましたのに。ご不満があるなら具体的に仰ってくださいな。それとアルバート様って見掛けに似合わず意外とテンション高いですわよね、軽く外見詐欺だと思いますわ」

「確実に君の所為だからね!!あと外見詐欺とかクローディアちゃんとゼロス団長だけには言われたくないから」

「失礼な方ですわね」

「ボクを巻き込まないでよ」

 騒がしい男を睨みつけながらクローディアはカップをソーサーへと戻した。

「そもそも聖女なんて本人達ですら意味のわかっていない存在なのですから、全てに合理的な説明をつけようという方が無理がありますわ」

「そこを考慮しても先程の話を呑ませるのは無理があるかと・・・」

「幾ら何でも都合が良すぎだろ。んな偶然あるか!」

 アルバートの言葉にクローディアは唇を歪めた。
 ローズピンクの垂れ眼を眇めた瞳で見据える。
 肩をすくめて、言い聞かせるように皮肉に歪めた唇を開く。

「事実は小説より奇なり、という言葉をご存じありませんの?
 都合のいい偶然なんて案外起こるものですのよ。実際」

 右手で胸元に触れる。
 細い指がドレスの上から見えずともそこに存在する傷痕を撫でた。

「その偶然によってわたくしは生きていますもの」

如何どういう事ですか?」

「ま、その話は後でしますわ。今は先に筋書きのお話を。
そもそもジルベルト様が見知らぬ女に唐突に求婚したというよりも最初っから知り合いだったって話の方がまだ信憑性があるじゃないですか。
婚約破棄現場に居合わせたっていうのは、あんなの殿下の完全なる思い付きですし偶然だって言い張れますわ。
今更聖女として扱われるのが御免で自害しようとした事は唯の事実だし、誰かを助けたくて覚醒するのだって可笑しな話じゃありませんもの。現にわたくしが聖女になった切っ掛けは瀕死の重傷を負った恋人を助けたいと願った事ですから。
当然、わたくしが本来使える筈の聖女の能力チカラを隠していたんじゃないかと国が考えている事は理解してますわ。使えたけど今まで使っていなかったと考える方が唐突な覚醒よりよほど合理的ですしね。
それについては以前ゼロス団長達にはお話ししましたけど、シュネールクラインには聖女の能力チカラを測る事が出来る宝具が御座いますの。わたくしも何度も使わされましたからわたくしの中に秘められた能力チカラがあった、なんてことがないことはお問合せ下さればすぐにわかりますわ。
何ならわたくしが聖女の能力チカラを完全に失った事も必要なら確認して頂いても構わないわ。きっと宝具は何の反応も示さないから。
かの国が誇る宝具を信じられないと国が喧嘩をふっかけるおつもりならそれはそれで構いませんし。
ほら、案外ちゃんとご説明できましたわ。他にご不満はあるかしら?」

 長々と喋って疲れた。
 クローディアはシュガーポットの脇のハニーディスペンサーを手に取ると冷めかけた紅茶へとたらりと垂らす。マリーが紅茶を淹れ変えてくれようとしたけれど首を振って断った。ティースプーンでくるくると水面を回すと冷めていても芳しい香りが鼻孔を擽る。甘みを増した紅茶で酷使した喉を潤す。

 誰も不満を口にしないが今度こそ反論なしということでいいだろうか。

「納得はしかねてらっしゃるようですわね」

 くすりと笑う。
 反論こそないものの納得の表情を浮かべて居る者は一人もいない。当然だけど。

「筋書きは一応理解したよ。建前としてはね。だけどキミは始めから奇跡と呼べる程の能力チカラを使えるコトをわかってたよね」

 それは疑問形ではなく。

「ええ、勿論」

 鮮やかな紅玉へとにっこりと笑いかける。
 あっさりと認めたクローディアに言葉を交わす二人以外の空気が揺れた。


「真相をお知りになりたい?」


 頷きに一度、瞳を閉じた。





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