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そしてお茶会は始まる
しおりを挟むポカン、と開け放たれた口。
ローズピンクの垂れ眼が真ん丸になって自分を眺める様を見て、クローディアはわざと淑やかに礼をして見せた。クローディアの動作をなぞる視線。
上げた片手を口元へと当て、くすくすと笑う。楽し気に細めた瞳は先程まで淑やかさとは違ういつものもの。
「そんなに印象が異なるかしら?」
首を傾げて問えば、笑われたアルバートはガリガリと頭を掻いた。
「正直、かなり。吃驚したわー。一瞬、別人みたいな感じがした。そうやって 揶揄ってくるところはいつものクローディアちゃんだけど」
あのパーティーの夜、髪色の変わったクローディアを眼にしている筈だけど、意識を取り戻した状態でアルバートと会うのはあれ以来だ。
オズワルドやゼロスは国の要請も兼ねて二度程見舞いに訪れているが、クローディアが会ったのはそれだけ。体調を気遣ってくれたのと、後処理で騎士団も魔術師団も手一杯だった事もあるだろう。面会は果たしていないが彼からもフレイヤやセオからも見舞いの品は受け取っていた。意外な事にヴィンセントからも。
「体調は大丈夫なん?」
「ええ。だけど過保護が過ぎて怠け癖がついてしまいそう」
「そりゃ自業自得だからしょうがないんじゃない」
現に玄関先に出迎えた今だって、ジルベルトはクローディアには座って待たせようとしていた。軽い愚痴を零せば快活に笑い飛ばされる。
オズワルドが見舞いと手土産を兼ねて手渡してくれた花束と包みを礼を言って受け取って訪れた彼らを庭へと促した。因みに訪れたのは三人。オズワルドにゼロスにアルバート。
フレイヤやヴィンセント、クローディアと親交のあるセオにも声を掛けたが大勢で押しかけるのもということで、国への報告を担う団長二人と自ら手をあげたアルバートが訪れた。
手土産の中身はフレイヤからの贈り物で花瓶との事。最近花を貰う機会が多いから嬉しい。早速後で部屋に飾ろう。
オルセイン家は既に到着しており、テオドールとシャーロットは庭に用意した席に待機済み。
真面目な話だから子供達はお留守番の予定だったが、ジルベルトやクローディアに会いたい!と二人がごねたため子供達は大人の話し合いが終わるまで侍女たちとともに遊んで待機。
何だそれ可愛い。
憂鬱なお茶会が終わったら可愛い二人と戯れて癒されよう、テオドールから子供達がついて来てしまった事に対する謝罪を受けたクローディアは密かにそう決意した。
鮮やかなベリーをふんだんに使った艶やかに輝くタルト。
貝殻の形が可愛らしいマドレーヌに、華やかなアイシングとトッピングを施したオーナメントクッキー。
中でも一番の力作は林檎を使った薔薇のタルトだ。甘さ控えめのアーモンドクリームとタルトタタンをピューレにしたものを敷き詰めたサクサクしたタルトの上に鮮やかな林檎の紅を薔薇の花弁に見立てた渾身の一品。
「わぁ!!凄く可愛い!!これ全部クローディアちゃんが作ったの?!」
瞳を輝かせて歓声を上げてくれるシャーロットに頑張ったかいがあるものだとクローディアは嬉しくなる。男性陣も褒めてくれるけどやはり女性の方が反応がいい。侍女達も大絶賛してくれた。
「小振りなタルトを幾つか用意してありますの。オズワルド様、帰りにお渡し致しますのでフレイヤ様に是非お渡し頂けますかしら。甘いものがお嫌いでなければ宜しいのだけど」
今更ながら不安になれば、オズワルドが柔らかく微笑んだ。
「有難う御座います。彼女も甘いものは好きなのでとても喜ぶでしょう。ですが女性は食べるのがもったいないとなかなか手を付けられないかもしれませんね」
「なら嬉しいわ。お気に召して頂ければまたお作りしますわ」
ケーキや焼き菓子の他、甘くない軽食を男性陣に手で示す。
「そちらはミートパイ、お酒にも合うように濃厚な味になっておりますわ。ブランデーケーキにスコーンにサンドイッチが各種。ジルベルト様もそうですが、男性陣は甘いものが苦手な方もいるでしょうし宜しければそちらもお召し上がり下さいな。飲み物もお茶でなくお酒でも構いませんわ」
お茶会、といいつつもティーカップの他それぞれの席にはグラスが並ぶ。
だけど皆が気になったのはそこではなく。
「クローディアってジルベルトのこと名前で呼んでたっけ?」
「結婚するわけでもないのに旦那さまって呼ぶのもばかばかしくなってしまって。それにテオドール様がいらっしゃるのにオルセイン様とお呼びするのも可笑しな話でしょう?気に障りましたら変えますけど」
ジルベルトに眼で問えば微妙な顔をしながらも首を振られた。
微妙な表情は前半の言葉に対する反応だろうか。
「別に敬称も不要ですよ」
「つーか、クローディアちゃんあの夜ジルって呼んでなかった?」
「ご不満がないようでしたらこのまま通しますわね」
笑顔でジルベルトの言葉もアルバートの言葉も斬り捨てた。
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