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お姫様抱っこは断固拒否
しおりを挟む色々な人達からの追及を避けること数日。
当たり前だが、いつまでもそういう訳にもいかなくなった。
面倒くさいという気持ちを隠しもしないでクローディアは大きく溜息を吐いた。
面倒くさい。心の底から面倒くさい。
これみよがしに額に手を当て大きな溜息をつくクローディアをジルベルトは困った顔で見つめている。
「これでも時間は稼いだ方なのです」
「わかっておりますわ。わかってますけど」
気が乗らないことには変わりがない。
クローディアが滅入っている理由。
要は一連の経緯を聞きたい、という要求だ。
ジルベルトやシャーロットを始め個人的にも何度も聞かれたし、見舞いに来てくれたオズワルド達にも公的な立場からも何度も話を聞かれた。だけどその度にクローディアは口を閉ざしてきた。
何故なら語りたくないから。
勿論それですむ話ではない事は百も承知だし、だからこれは唯の時間稼ぎ。
そしてそれが許されていたのは偏にクローディアが瀕死の重傷を負った身であったからだ。
国に多大な貢献を果たした功績と体調を慮って事情を無理に聞き出すのを免れていただけ。
あの夜何があったのか、クローディアの能力の事。それらを国が知りたいと思うのは当然の事で。ましてはクローディアはシュネールクラインの王妃候補であった者。かの国との対応を含めマーリンの上層部が詳細を得たいと考えるのは至極当然だった。
クローディアを王宮に招く話が出ている。
面倒くさい。わかっていた事だけど面倒くさい。
「王宮にはまだ貴女は療養中で外に出るのは早いと断っています。ですが、このままでは彼方も納得しません」
「せめて詳細だけでも聞き出せ、という事ですわね」
「はい。それに公の事は抜きにしても私はクローディアから話を聞きたい」
「・・・」
少しだけ眇めた目で眼の前のジルベルトを見返す。
「真実など知ったところで 如何なるものでもないでしょう?」
「それでも、です」
「後悔するだけでも?」
「はい」
迷いない瞳を向けてくる彼に溜息をもう一つ。投げやりな気分で天井を仰いだ。
どうせいつまでも誤魔化すことは出来ない。
こうなっては、聖女の能力を失くした事が唯一の救いだった。
何せこれでもうシュネールクラインもマーリンも自分を聖女として利用する事は叶わない。
ざまぁみろ。口汚くも内心で呟く。
「お茶会をしましょう」
唐突な言葉にジルベルトがポカンとする。
「確かにいきなり王宮に招かれるよりも皆様にお話ししてお伝えしてもらう方がずっとましですもの。お話ししますわ。
長い話になりますし、折角ならお茶会を致しましょう。オズワルド様達のお時間が取れる日を確認して頂けるかしら。人員は貴方にお任せ致しますわ。テオドール様達もお呼びした方がいいかしら。貴方のご実家なのだからきっと周りに根ほり葉ほり聞かれて困っていらっしゃるでしょうし」
「日程を合わせるのは構いませんが、お茶会じゃなくても。貴女はまだ療養されていた方が」
「嫌ですわ。そうでないなら話しません」
気遣ってくれる彼にそっぽを向いた。
正直、ベッドの上の生活は飽き飽きだった。躰はもう大丈夫なのに彼も周りも過保護すぎる。このままでは根が生えてしまうのではとクローディアは密かに危惧する程だ。
特にまだ動かない方がと、移動を抱きかかえられそうになった時は断固拒否した。むしろ悪化。心臓に無駄な負担だから。
そんなこんなで憂鬱なお茶会が開催される運びとなった。
お茶会当日。
天気は晴天。雲一つない澄み渡った空に、穏やかな気候。まさしくお茶会日和。
ちっとも心弾まないお茶会を前に、クローディアは久々に大忙しだった。
止める周りを無視して、お茶会の為のお菓子作り。久々に趣味の料理に没頭して、ほんの少しだけ気分が上昇。だって正直やってられない。何かに没頭することぐらい赦して欲しい。
選んだドレスは白。
そしてそれはあの日、《星祝祭》の夜に来ていた白のドレスだ。
あの時と同じイヤリングに髪飾り。ネックレスだけは同じパールの二連のものでも、あの日のものではなく初めてのデートで身に着けた二連のパールにロイヤルブルーカラーのサファイアがあしらわれたものに変えた。
支度を終えたクローディアをわざわざ部屋まで迎えに来てくれたジルベルトがその姿を見た途端息を呑む。普段のクローディアの好む装いとは趣の違う白く可憐なドレス。髪の色も白となった今では更に雰囲気も異なるだろう。
無言でクローディアを凝視するジルベルトへと笑いかける。
「似合わないかしら?」
問い掛けにはっとしたジルベルトが慌てて首を振った。
「凄く良くお似合いです。その服は・・・」
「ええ。折角用意したのに無駄になってしまいましたから」
にっこりと笑う。
完全なる当てつけだった。
「わたくしとっても機嫌が悪いの。お止めになるなら今の内ですわよ?きっと貴方は嫌な思いをするし、知りたくない事も知る事になる。王宮に報告出来るだけの内容があれば、それ以外の事なんて放っておけば宜しいのではなくて?」
「そんな訳にはいきません」
名を呼ばれ、姿勢の良い長身が直角に折れ曲がる。
「申し訳ありませんでした」
真摯な声音。自分より低い位置にある紫紺の後頭部を見つめる。
「貴女は謝罪も弁解も不要だと言った。赦してもらおうとは思っていません。ただ、謝らせて下さい。あの夜の事、それ以外の事も全て。クローディアの心を私が傷つけた事、この国へ連れて来て、辛い思いをさせた事、本当に申し訳ありませんでした」
身を起こした彼の手が頬を撫でる。
「そして」苦痛に歪めた顔を続けられる言葉。
「例え貴方が望むまいとも、貴女を手放す事が出来ない事も」
それに返せる言葉を、クローディアは持たなかった。
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