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一面の花畑で
しおりを挟む一面のお花畑。
沢山の花の中に座り込んで、クローディアは花冠を編んでいた。
白にピンク、オレンジ、赤、柔らかな淡い色合いの花々で編んだ色とりどりの花冠。最後の一本の茎を最初に編んだ部分に差し込んで輪を作れば完成だ。
可愛らしく出来上がった花冠にクローディアは満足そうに微笑んだ。
不意に差し出された手が優しくそれを奪っていく。
大きなアメジストの瞳でその動きを追えば、奪われたそれはそっとクローディアの頭の上へと返された。
「ディアによく似合ってる」
褒め言葉に嬉しくなりながらもクローディアは少しだけ唇を尖らせる。
「貴方にあげようと思ったのに」
「僕よりディアの方がよく似合うよ。凄く可愛い」
蒼い瞳が優しく笑いかけてくれて自分の頬が真っ赤になるのが見なくてもわかった。熱を持つ頬を冷ますように両手を自分の頬に当てる。熱い頬に掌が冷たく感じて気持ちいい。
「真っ赤だよ?」
くすくすと笑いながら覗きこんでくる彼の顔を睨みつける。
だけど睨みつける瞳とは裏腹に頬が緩んでいるのも自覚している。
風が吹き抜けて、一面の花々が波のように揺れた。
それはまるで色鮮やかな海のようで。
甘い香りが辺り一面に香り立つ。風に花冠がさらわれないようにクローディアは片手で頭を押さえる。長い白髪が風に舞い、白いワンピースの裾もひらひらとひらめいた。
「すごい風だったね。そろそろ帰ろうか」
差し出された手を握る。
指を絡ませて握りしめた手をぷらぷらと揺らした。
「私が大人だったら良かったのに」
「急にどうしたの?」
「だってそしたら帰る家だって同じだわ。それに」
むぅっとむくれる。
その仕草に何が言いたいのかわかったのだろう。
だってもうクローディアは何度も同じことを言っていて、その度に彼はクローディアを宥めているのだから。
「大人だったら《星祝祭》に結婚出来たのに?」
「・・・」
「ディアはまだ12歳なんだから仕方ないじゃないか」
「だって!今年は折角の十年に一度の《星祝祭》なのよ。そんな時に結婚なんて絶対ロマンチックだったのに!!次の大規模な《星祝祭》なんて私もう22歳よ。そんなに待てないわ!」
「じゃあディアが16歳になった《星祝祭》の日に結婚しようか」
「・・・でもそれだと普通の《星祝祭》だもの。特別な時の方が素敵だったのに・・・」
「だからプロポーズはその特別な今年にするって決めたんでしょう?ランタンが上がる日に婚約するって」
「絶対、絶対約束だからね」
「うん。約束」
小指を差し出されてクローディアもそれに小指を重ねる。反対の手は繋いだままだったからお互い可笑しな恰好になった。その事にくすくすと笑う。
「それに僕は特別な日じゃなくてもディアと結婚出来るの嬉しいよ」
蒼い瞳が優しく微笑む。
「それだけで十分特別な日だよ」続いた言葉に悔しくなる。
ぼんっと沸騰したように顔が赤くなるのが分かった。きっとさっき以上だ。
そんな事を言われたらまるで我儘を言っていた自分が彼との結婚を特別だと思っていないようではないか。
違うのに。特別で大切だから一番特別な日が良かっただけなのに。
「・・・ずるい」
知ってる癖にそんな言葉を口にする彼に頬をぷくっと膨らませた。
花畑の中を歩く彼の歩みが止まった。
手を繋いでいたクローディアの歩みも同じように止まる。
繋がれていた手が解かれて、彼の手がクローディアの両肩を掴む。
「ディア」
深い海のような蒼い瞳が私を映す。
「大好きだよ。
離れても忘れても、きっと何度だって君を見つけて好きになる」
綺麗で大好きなその蒼に映っているのは、雪のような白に限りなく近いプラチナブロンドの長い髪に紫の瞳の少女。
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