おままごとみたいな恋をした

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戦場は本物の戦場へ

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 着替えて戻ってきたフレイヤが合流する。フレイヤが剣を借り受けるのに便乗してクローディアも細身の剣を借り受けた。

「あんた剣も使えるの?」

「嗜み程度に」

 外へと向かいながら意外そうに問いかけてくるヴィンセントに簡潔に返す。



 森に面した広大な敷地。
 視線の先の森は夜の闇を纏い鬱蒼としており、今にもそこかしこから魔獣が飛び出して来そうな気がする。月もあり、まだ辺りが見渡せる程度の暗さだから良いものの、長引いて夜の闇が深まる程に夜目の聞かない人間側が不利になるのは明白だった。

「報告から考えるにあと十分もすれば魔物の群れはこの辺りまで来る。応援が駆けつけられるのは先行部隊でも一時間半はかかる。本格的に到着するとなれば二時間は超えるだろうな」

「森は破壊しても構わないんデショ?オズワルド。屋敷も被害出るだろーケド」

「つーか、駄目とか抜かしたらまともに闘えねぇースけどね」

「構わない。領主には命とどちらを優先するか考えろと伝えさせた」

 オズワルドの言葉に好戦的な瞳を剥き出しにしたアルバートが首元のタイをボタンごと引きちぎり、上着を芝生の上に投げ捨てる。引き抜いた剣と同じに瞳がギラギラと光ってる。

「魔術に長けてらっしゃる方はどれくらいいらっしゃるの?ゼロス様達以外にも団長・副団長クラスの方はいらっしゃるのかしら?」

「魔術師は数名おりますが、役職持ちはあと彼方の第四の副団長ぐらいでしょうか」

「存じ上げない方なので呼んで来て頂いても宜しいですかゼロス様」

「何でボク?」

「だって、魔術師の中では一番立場が上でしょう」

「彼に何か用が?」

「わたくしが補助致しますわ。ただ全ての魔術師の効力を上げるのは無理ですので、どうせ上げるのなら能力が高い方のほうが宜しいでしょう。手をお借りしますわね。ヴィンセント様も、お嫌でしょうけど手を貸して下さいな」

 クローディアはジルベルトの手をとって、反対側の手をヴィンセントへと差し出した。
 一瞬躊躇ったのちに重ねられたヴィンセントの手を握りしめて瞳を閉じる。
 力を籠めるようにして数秒、彼の手を離すと今度は戻って来たゼロスと第四魔術師団の副団長だという男性にも同様に。全てが終わった後、クローディアは大きく一つ息を吐いた。

 疲労感に僅かに揺れた足に、ジルベルトが慌ててクローディアの背を片手で抑える。
 もう片方の手はクローディアが握ったまま。

「大丈夫ですか?」

「ええ、集中するので少し疲れただけですわ。有難う御座います」

 礼を言って足元に力を入れて体勢を立て直す。
 繋いだままの手を離した。

 地響きが聴こえる。
 魔獣たちの足音はすぐそこまで迫っていた。暗闇に幾つも光る赤々とした眼。

「これで本当に効果が上がったの?」

 半信半疑なヴィンセントにクローディアは獣の群れを指さした。

「わたくしはこれでも聖女ですのよ。試してご覧になればいいわ」

 指さした方向へと向かって放たれた風の刃に鮮血の赤が舞う。ごとりと音を立てて落ちた幾つかの首。意図したそれよりも遥かに大きい威力にヴィンセントは驚いてクローディアを見た。
 それににっこりと笑いかける。

「信じて頂けたかしら。大分効力を上げてますので魔獣を一斉に屠る際には有効ですけど、人が居らっしゃる方向へ魔術を放つ場合はお気をつけになって」

 ヴィンセントだけでなく、ゼロスやジルベルト、名も知らぬ第四魔術師団の副団長に向かってクローディアはそう告げた。
 ついで手にしていた剣で徐にドレスのスカート部分を縦に裂いた。
 スリットのようになったクリムゾンレッドの鮮やかな色彩から白い脚が覗く。

「何をしてるんですか?!」

 慌てるジルベルト達をよそにクローディアはウエスト部分を彩っていた花の飾りをぽいっと投げ捨てる。風の刃を起こして靴のヒールを切り落とせば、ヒールの高さだけストンと躰が下へと降りる。

 これで大分闘いやすくなった。

 低い靴に、足元の動きやすくなったドレス。本当ならフレイヤのように服を変えたかったところだが、長身の彼女と違って小柄なクローディアでは幾ら小柄な男性の服を借りたところで丈が合わない。下手に裾を踏みつけでもしたら逆に動きにくくなってしまう。



「戦闘開始ですわね」



 高らかに夜空へと放たれた咆哮に、ぽつりとひとつ呟いた。









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